約 514,068 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2334.html
夢現で思うのは幼馴染の少年の事。 何故だろうか、食い違ってしまったのは。 (こんな筈じゃ無かったのにな) 多分、“私”はあの悪魔と契約をしたのだ。 覚めて行くまどろみの中で飛鳥はそう思う。 バッテリーの充填率は3割。 充分だ。 飛鳥の巡航速度は人が走るより速い。 今から出てもまだ間に合う。 まだ、北斗を守れる。 「きっとその為に、私が此処に居るんだ」 本来ならばバッテリーのチャージが終わるまで、決して起きるはずの無い武装神姫が目を覚ます。 それは別段超常的な事ではなく、万に一で起こりうるただのバグ。 ただ、それがココで起きた事はほんの微かな奇跡。 飛鳥は未修復の千切れた右腕を押さえながら、夜の空に翼を広げる。 「行かなくちゃ!!」 私が待ってる。 アスカ・シンカロン12 ~賑禍~ 「……はぁはぁ、間に合ったぜ」 家から走って校門を乗り越え、窓を割って校舎の中へ。 そして屋上まで階段を駆け上り、ジャスト15分。 「……やっぱり来てくれた。北斗ちゃんは私の事が大切なんだよね?」 北斗ちゃん。 その呼び方は……。 「……お前、やっぱり明日香なのか……?」 「どっちだったら良かったの?」 「え?」 「北斗は、夜宵ちゃんと明日香。どっちが良かったの……?」 「それは……」 「私は。どっちになればいいの……?」 「お前、何言ってるんだ!! そんなの、元もままで良いに決まってるだろ!!」 「……」 「だ、そうですヨ」 明日香か夜宵かも定かではない少女の背後から、白い悪魔型が姿を見せる。 「やはり、貴女達は同じでなければ受け入れられなイ」 「……テメェ」 「さあ、考えましょウ。二人が同じになる方法ヲ。……そうでないト。……彼に受け入れてもらえなイ」 「テメェが元凶か!!」 「まさカ。私はただ提案しただけでス。同じだからいけないのかも知れないッテ」 違えば。 何かが変わるのだと。 「そしテ、それが誤りだったのではないカ、と。提案しているだけですヨ?」 それを実行に移したのはカノジョ。 実行に移させたのは。 「他ならヌ、貴方でス。神凪北斗」 「テメェをぶっ壊す!!」 「どうぞご自由ニ。でも良いんですカ? 私にかまけているト―――」 「…………」 屋上のフェンスを、少女は昇り始める。 「……っ」 どちらの名前を呼べば良いのか。 その間に白い悪魔型が迫る。 「如何しましタ? ワタシを壊すならお早めニ。……でないト、でないト。……カノジョ死んでしまいますヨ?」 「……クッ!!」 フェンスはそれほど高くない。 あっという間に彼女の手がその縁に掛かる。 「待て!!」 駆け寄ろうとする北斗の眼前に踊り出る白い悪魔。 その爪が正確に北斗の眼を狙う。 「……チッ!!」 腕で叩くが、さほどのダメージでもないらしく、すぐに次が来る。 「邪魔するな!!」 彼女の片足がフェンスを越えた。 白影は正確に眼を狙ってくる。 払っていては、間に合わない。 「……!!」 覚悟を決めた。 目の一つ二つ奪われても、彼女の所まで辿り着く。 それが先だ。 「無駄でス。彼女は死ニ、貴方も死ヌ。ソレがワタシの食事なのですかラ。邪魔をしないで下さイ!!」 視界に飛び込んでくる爪が迫る。 だが、足は止めない。 払う暇も無い。 彼女は既に重心をフェンスの向こうに。 「 ーーーッ!!」 自分で。 どちらの名前を呼んだのか。 神凪北斗には自覚が無かった。 爪が。 フェンスを。 迫る。 乗り越えて。 突き刺さる。 落ちる。 ―――直前。 「北斗!!」 「―――っく!!」 「!?」 “吹き飛んだ”悪魔型の横を抜け、フェンスに駆け上がった北斗の手は確かに落ちる少女の腕を掴んでいた。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2271.html
1st RONDO 『どいつもこいつも神姫マスター』 『ホイホイさん』 という人形をご存知だろうか。 そのネーミングからなんとなく想像がつくように、この人形は殺虫剤をものともせず室内を走り回る “黒い閃光(通称G)” を駆除するためにマーズ製薬㈱によって生み出された――とはとても思えない、3.5頭身の可愛らしい殺虫人形だ。 俺がまだ高校生2年生だった頃に市場に出回ってからというもの、授業中に持ち主の鞄から抜け出し校舎内を徘徊するホイホイさんが後を絶たなかった。 思い思いの装備に身を包んだホイホイさんは片っ端から害虫をデストロイし、そこら中に死骸の山を築き、挙句の果てに生物部で飼育していた小動物にすら手を掛けてしまったのだが、そこはまあ、どうでもいい。 マーズ製薬曰く 「ホイホイさんは(ゴキブリに殺虫剤が効かなくなったから)冗談のつもりだったのに生産が追いつかない」 と続々とホイホイさんアナザーバージョンを生み出し、他の製薬会社もホイホイさん同様の機種を続々と発表していた頃、大手玩具メーカーのコナミ㈱から、 『武装神姫』 という人形が発売された。 こちらもホイホイさんのように武装させる人形なのだが、大きく違う点として、 ・種類にもよるが、頭身は5~6。ヒトガタに近い。 ・武装は神姫同士の勝負を楽しむためにある。 Gを駆除するためではない。 ・人間と遜色ない会話・行動が可能。腕などの関節部を見なければほとんど小人。 が挙げられる。 スペックの高さから分かるように値は張るものの、この “心を持った人形” で勝負を楽しむだけではなく、生活のパートナーとして扱う者も多い。 さて、男ならば当然の発想として(?)、ホイホイさんと神姫を戦わせてみたくなる。 異種格闘戦にときめかない男など男ではない。 たぶん。 そしてそのトキメキは弓道部内で唯一の神姫マスターであった部長と、その他複数人のホイホイさん達によって実現することとなった。 後に “Mの悲劇” と呼ばれる事件である。 あまりにも酷たらしく、そして惨たらしく殺壊された猫型神姫マオチャオは観戦していた部員達に強烈なトラウマを植えつけた。 その話はまたいつの機会に取っておくとして。 それから大学に進学した今日に至るまで俺は、神姫を購入したくても手を出せないでいる。 ▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽ 夢のキャンパスライフ。 そんなものは所詮夢であったと思い知らされた大学一年目が終わり、しかし春の風と共に乗ってきた幸福感をたっぷりと噛み締め、二年目は軽快に滑り出した。 何せ人生初となる彼女ができたのだ。 春とはいえ過剰に浮かれポンチになっていたとしても、多少は目を瞑ってもらいたい。 それができないならば、俺が無理矢理にでも目を逸らさせてくれよう。 姫乃を有象無象の濁りきった目に晒したくないのだ。 独占欲とはこういうことかと、今更ながらに知った背比弧域である。 しかし現実的に姫乃を独占するのは難しく、今はお互い離れた席に座り、姫乃は彼女の友人達とひそひそおしゃべりを楽しみ、俺の隣には 「すぴー……こーほー……」 講義の最中であろうとお構いなしにふんぞり返って爆睡する貞方がいる。 だらしなく開かれた口に水で濡らしたティッシュを詰め込みたくなる。 人が真面目にノートを取っているというのに、こいつは講義が始まる前から寝息を立てていて、しかもそれでいてこいつは “ノートをしっかりと取っているのだ”。 貞方の机の上で教授の板書が綺麗に現在進行形でまとめられている。 ノートの上で自分の背丈と変わらないシャープペンを一生懸命動かすのは貞方の神姫の、 ええと―― 「ハナコです。 よろしくお願いします、背比さん」 俺の視線に気づいた神姫に突然話しかけられ、うっかりシャープペンを落としてしまった。 まさかいきなり自己紹介されるとは思わなかったから驚いた、わけではない。 というかハナコとはほぼ毎日顔をあわせている。 幼い頃テレビで 「一度会ったら友達で、毎日会ったら兄弟だ」 と着ぐるみ4匹に教わったのを思い出した(昔の教育番組の再放送だった気がする)。 ということは、俺とハナコは兄妹ってわけだ。 ……必然的に貞方とも兄弟になってしまった。 このハナコと名乗る勘のいい神姫は犬型のハウリンと呼ばれるタイプだ。 ケモテック社ならではのコミカルで愛くるしい見た目が特徴的で、 ――マオチャオと同時に発売されただけあって、そのシルエットはトラウマを呼び覚ます。 「……神姫って読心機能ついてんの?」 「あ、いえ。 私の名前を忘れたなー、という顔をされていたので」 そう言ってペコリと頭を下げ、再び作業に戻った。 今は身体を服っぽくペイントされているだけだが、貞方がこの神姫を買ったときに一度 「どうよ俺のハナコ、イカすだろ!」 と武器を持たせた状態で見せられたことがあった。 その時は頭に犬に似せた被り物をさせて、手足もアニメ調の犬らしくなっていた。 なるほど、犬型ね。 ダメ飼い主に文句も言わずノートを取る姿を眺めていると、なんだか俺が心苦しくなってくる。 シャープペンを両手と脇で器用に支えて字を書き、芯が短くなればシャープペンを逆さに持って机に杭を立てるようにノック。 字は綺麗でもさすがに書く速さはどうしようもないらしく、教授の板書について行くためにさっきから一息つくこともなく手を……じゃなく、身体を動かしている。 俺のノートを後でコピーさせてあげたくなるが、結局それが貞方の手に渡ることになるのが気に食わないので、ハナコには申し訳ないのだが、ダメ飼い主を引き当ててしまった運命を全うしてもらうより他はない。 いや待て、何故俺がハナコに気を使わねばならんのだ。 それにしてもハナコの字、綺麗だなあ。 ロボットだからなのか、書道の手本のような明朝体だ。 ……人形よりも字が汚いんだな、俺って。 「あ! ……すみません、背比さん」 「うん?」 「その、大変申し訳ないのですが、シャープペンの芯を一本頂けませんか。 後でちゃんとお返ししますから」 「いや、芯くらいいくらでもやるよ。 ダメ飼い主を持って大変だろ」 「いえ、とんでもな――あ、ありがとうございます――ショウくんのためになれて嬉しいですから」 そう言って、ハナコは微塵の邪気も混ぜずにはにかんだ。 健気だ。 健気すぎる。 その笑顔が眩しすぎて、 「いや、代わりにノートをとるのは貞方のためにならないぞ」 とは口が裂けても言い出せなかった。 というか貞方、自分のことを 「ショウくん」 って呼ばせてるのか。 いつもは 「マスター」 だったと思ったが――ああ、そういうことか。 「なあ。 普段は貞方のことを何て呼んでるんだ」 「普段からショウくんですよ。 でも外では恥ずかしいからマスターと呼べと言わ…………」 「ほう。 普段はショウくん、ね」 「~~~~っ!!」 シャープペンを放り投げてその場に丸くなってしまった。 頭隠して身体隠さず。 抱えた頭を少しだけ上げてこちらを上目遣いで見るハナコ。 どうする、アイフル(何年前のCMだ)。 ただのレンズであるはずの瞳が潤んでいるように見えて、少しだけ、この神姫を可愛いと思ってしまった。 「あ、あの、このことはショ……マスターには、」 「分かってるって。 言わないから安心してくれ」 俺だって知りたくなかったよ。 こいつが人形に 「ショウくん」 と呼ばせてるだなんて。 ホッと胸をなで下ろす仕草も可愛らしく、 「では、くれぐれもよろしくお願いします」 とペコリと頭を下げ、再びシャープペンを抱えた。 まあ、正直に言うと、神姫に自分のことを愛称で呼ばせたくなるのは分からないでもない。 未だ “Mの悲劇” を引きずっているとはいえ、貞方とハナコのように良い付き合い方 (この場合は仲が良いことを指すのであって、神姫にノートを取らせるのはマスターとして、いや人として駄目だ) を見ていると、人間と人形のそんな関係もアリなんだろうな、と思えてくる。 いや、もちろん俺には一ノ傘姫乃という無敵に素敵な彼女がいるわけだが。 ボロアパートの一室、俺の部屋の中に身長15cmの小人が住んでいるのを想像すると、ついつい口が緩んでしまう。 ふと気がつくと、ハナコといつの間にか目を覚ました貞方が二人そろって怪訝そうに俺を見ていた。 「何ニヤついてんの、きめぇ」 さっきまでのコイツのアホ面、写真に撮っとけばよかった。 「そういえば背比、神姫買わないの?」 何が悲しくて、彼女ではなくアホ面野郎と昼飯を食わねばならんのか。 男が全生徒の九割以上を占める工業大学では姫乃曰く 「人数少なくても理系でも、女の子は女の子なの。 良くも悪くも」 だそうで、付き合い始めてからまだ一度も二人で昼飯を食べたことがない。 事情は理解しないでもないが、それでも目の前にいるのが貞方というのが、率直に嫌だ。 「あん? なにが?」 「神姫。 一ノ傘さんも持ってるじゃん」 「は!? なにそれ、俺知らねぇんだけど! なんでお前が知ってんの?」 貞方が思いっきり仰け反って顔を引きつらせた。 何やってんだこいつ。 ……と思ったら、いつの間にか俺が貞方を責めるように身を乗り出していた。 「そりゃだって、見たし。 講義ん時に鞄の中にロバ耳の王様みたくしゃべってて、何やってんだと思ったら神姫が顔だけ出してた。 あのツインテールは確かストラーフ型だったと思う」 コイツが知っていて俺が知らないことがあるのも腹立たしいし、それをコイツから聞いたというのも腹立たしい。 今まで姫乃に、神姫に興味がある素振りはなかったように思うが、何せ神姫といえばハイスペックパソコン並に高価な人形だ。 リカちゃん人形のようにそうホイホイと買えるものではない。 (リカちゃん人形にはホイホイさん並の人工知能しか搭載されていない。 子供に悪影響を与える可能性があるのと、人形メーカーとしての誇りがあるとかないとか。) 俺が神姫の話を振っても 「んー、そうねえ」 と生返事を返すだけだった。 それがどうして? いつ、どこで、なぜ姫乃は神姫を購入するに至った? そして何故それを俺に黙っている? ……姫乃が何を買おうと彼女の勝手なのは分かっているつもりでも、どうも、こう、考えが悪い方に悪い方に向かってしまう。 みみっちい男と笑われるかもしれないが(姫乃に限ってそんなことは有り得ないが)、彼女のことはどんなことだろうと把握しておきたいし。 …………まぁ、何だ。 俺と姫乃ではない第三者が表れ、ソイツの影響で神姫に興味を持ったんじゃないかと邪推しているわけだ、俺は。 情けない男だろ。 ちっちゃい男だろ。 「ほら笑えよ。 笑いたいんだろ、無理矢理笑わすぞコラ」 「意味ワカンネーヨ。 っつーか、仮にその第三者がいたとしても、そいつが男とは限らんだろが」 「だから男だったらどうすんだっつってんだろ! お前責任取れんのかこの糞野郎!」 「はぁ!? カツカレーの食い過ぎで頭イカレたかお前。 ってか一ノ傘さんが浮気とかするわけないだろが。 アホか」 「お前に姫乃の何が分かる!! 適当なこと言ってんじゃねええええええ!!」 「テメエも知らなかったじゃねえか! ウダウダ言ってねぇで本人に聞けやあ!!」 「ハナコにショウくんとか呼ばせてんじゃねぇええぇぇぇぇぇぇえええ!!!!」 「おまっ!? 何故それ……はなこぉぉおおおあああああああ!!!!」 食堂で騒ぐ馬鹿が二人。 不毛な罵り合いは、貞方の鞄から出てテーブルによじ登ってきたハナコが仲介に入るまで続いた―――― NEXT RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~1/4』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2353.html
剣と剣がぶつかり合う音が、廃墟に響き渡る。 片刃の長剣、エアロヴァジュラでと長槍の破邪顕正をはじきあげ、HMT型イーダ・ストラダーレ――個体名ヒルデガルドは距離をとった。 対する侍型紅緒――個体名藤代は地面を蹴り、こちらに一気に距離を詰め、長槍を突き出してくる。体勢を立て直す暇を与えないつもりのようだ。 『エアロチャクラムで受け流せ』 「はいですわ!」 マスターからの指示を受け、ヒルデガルドは左側のエアロチャクラムを瞬時に操作する。 パンチを打つように突き出したエアロチャクラムの表面装甲を破邪顕正が薄く削りながら流れていった。 ――西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、現在からつながる当たり前の未来。 その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。 「そこっ!」 藤代の体勢が流れたところで、エアロヴァジュラを一閃。しかし、右肩の鎧部分を斬り飛ばすだけに終わる。――藤代がとっさに槍の石突をつかってこちらをヒルデガルドを殴りつけたからだ。 「うっ!」 「危ない危ない。だが、勝負はこれからだ!」 藤代は再び距離を詰めてくる。武装は破邪顕正から為虎添翼と怨鉄骨髄へと変わっていた。手数を重視し、こちらを押しこむ腹のようだ。 「そらそらそら!」 「くううっ!」 ヒルデガルドはエアロヴァジュラを一度放棄。エアロチャクラムを両手で操り藤代の連撃を捌いていくが、鋭い刃を持つ二振りの小太刀は容赦なく装甲を削り取っていく。 ――神姫、そしてそれは、全高15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。 多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。 その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。 「どうしたどうした! 懐に入り込まれては手も足も出ないか!?」 「……っ、うるさいですわ! えいっ!」 轟、という音を従えてヒルデガルドはエアロチャクラムを振りぬく。しかし、藤代は半身になってそれを受け流すと、為虎添翼を下から振りぬいた。 懐深くに入りこまれたせいか、ヒルデガルドは咄嗟に体をそらしたが、為虎添翼の剣先がヒルデガルドの頭部に装着されていたルナピエナガレットを叩き割る。 「あっ……」 そのまま体勢を崩し、倒れるヒルデガルド。藤代は勝利を確信した。 「これで終わりだっ――首級、頂戴!」 仰向けに倒れたヒルデガルドに、藤代は逆手に握った怨鉄骨髄を振り下ろした。 オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ――。 第一部 ヴァイザード・リリィ 渾身の力で振り下ろされた怨鉄骨髄は横方向の衝撃に弾かれ、廃墟の壁に突き立った。 ヒルデガルドがエアロチャクラムを倒れた状態から振りまわし、怨鉄骨髄を叩いたのだ。そのままその勢いを利用してヒルデガルドは体勢を整える。 「っ……。必殺のタイミングと思ったのだがな」 悔しそうに、しかし嬉しそうに笑う藤代。 「まあいい。まだまだ楽しめるのは私にとって嬉しいことだ……。久々の強敵だ。こう早く終わっては困る」 「……くふふっ」 ヒルデガルドも笑う。 「なるほど、貴女も楽しいか。そうだろう! 我らは武装神姫。戦うために生まれた存在だ!」 「……くふふっ。もちろん楽しいですわ」 ゆっくりとヒルデガルドは立ち上がる。そして、まだ顔に引っかかっていたルナピエナガレットを素手で掴み―― 「ですが、ワタクシは戦うことが好きなのではありませんの――」 ――握砕した。粉々になったバイザーは0と1に分解され、データの海に消えていく。 露わになった紫水晶色の目が恍惚の表情に眇められる。 「――勝つことが好き。勝つことが楽しいのですわ」 「……愚かな。結果のみ求める者に碌な者はおらんぞ?」 「かまいませんわ。――もっとも、『彼女』は戦うこと自体あまり得意ではありませんが、ワタクシは違いますわ。全力でお相手いたしますわ、お武家様」 瞬間、地を蹴る。二体の神姫の距離があっという間に零になる。 「!!」 あまりのスピードに藤代は対処が遅れた。 ハイマニューバトライク型であるイーダ型は機動力には確かに定評があるが、ここまでの瞬発力は藤代にとっては前代未聞だった。 藤代はとっさに為虎添翼を眼前に立てる。 刃がかみ合う硬質音。エアロヴァジュラと為虎添翼がぶつかり合った音だ。 「……ここまでの瞬発力を出せるとは。ようやく本気になったということか?」 「本気? ……そうですわね。勝つためにワタクシはおりますの。ゆえにワタクシは常に本気ですわ」 ――エアロチャクラムがノーモーションで振られる。身を引くことが敵わず、藤代は宙を舞った。 「がっ!?」 バーチャルの空を高く舞い上がり、背中から地面に叩きつけられる。 「ぐ……くそっ」 起き上がろうとする藤代。しかしそれは直後に上から飛びかかってきたヒルデガルドに押さえられた。 「ぐっ!」 エアロチャクラムで両手首を掴まれ、地面に押さえつけられる。ヒルデガルドはエアロヴァジュラを逆手に握り、藤代の喉に突きつけていた。 「……どうした? 獲物の前で舌なめずりとは。さっさと首を切るといい」 「……くふ、くふふっ。負けが決まっても、強気な御方……。ますます気に入りましたわ」 ヒルデガルドはそう言うとエアロヴァジュラを藤代の首筋のすぐ横に突きたてたそして―― 「!?」 「いつまでそんな強気でいられるか――試させていただきますわ?」 「――っ! むぐっ!?」 ――藤代の唇を、自身のそれで塞いだ。 たっぷり十秒近く口づけを交わした後、ヒルデガルドは顔を離す。 藤代はあまりの出来事に声が出ない。 「な!? な、何――」 「貴女はワタクシの獲物――。ならば、ワタクシがどう料理しようと、ワタクシの勝手でしょう? 御安心なさいな、美味しく食べて差し上げますわ」 ヒルデガルドの右袖飾りが展開し、中の機構をむき出しにする。その起動を確認した後、ヒルデガルドは右手で藤代の身体をまさぐりはじめた。 「きっ貴様っ! 自分が何をっやっているのかっ……くぅっ、わかっているのか!?」 「勿論ですわ。さあ、早く貴女の声をお聞かせくださいな――」 「や、やめ――ひぅっ!? ふぁっ! やぁっ!?」 突如として始まった羞恥劇に、藤代はエアロチャクラムを振りほどこうともがくが、ヒルデガルドが藤代に触れるたび、藤代から力が抜けていく。 外では彼女たちのマスターが何か騒いでいたが、ヒルデガルドにとってはそれは些末事以下であった。 「くふ、くふふっ。くふふふふっ……」 「い、嫌だっ! 嫌だ! やめろ、やめろっ! やめっ、おねがい、やめてぇっ……」 藤代の願いむなしく、ヒルデガルドの指は彼女の身体の隅々までを舐めつくし、凌辱する。 そして、それが秘部に到達しようとしたときだった。 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! ――Surrender A side. Winner Hildegard. 藤代側のサレンダー。ジャッジの審判が下ると同時に、藤代の身体は0と1へと変換され、バーチャルの空へと還っていく。 それを見送り、ヒルデガルドは先ほどまで藤代を嬲っていた右手を舐めて、呟いた。 「もう、あと少しの所でしたのに――無粋な殿方ですこと」 ◆◇◆ ――「また」やった……。 俺――如月幸人は筐体の前で頭を抱えた。 周囲で観戦していた他の神姫やそのマスター達はこちらをみて苦笑ともとれないような微妙な表情をしている。 その顔は全て「相手も可哀そうに――運が悪かったなあ」と語っていた。 筐体の向こう側では、紅緒型の神姫――確か藤代、といったか――のマスターが泣き崩れる彼女を必死に慰めていた。 「主っ……主ぃっ……。私、汚れてしまいました……。この身を全て主に捧げ、永久の忠誠を誓ったのに……」 「藤代っ!? 藤代! 大丈夫だ! あれは全てバーチャル空間での出来事だ! お前の身体には一片の汚れもない! あとその言い方は俺に激しい誤解が生まれるからやめてね!」 「あのイーダ型に触れられた感触が、今でも……。こんな汚れた身体では、もう主にお仕えすること叶いません。主、貴方を残して先に逝く私をお許しください――」 「藤代――ッ!?」 ……なんだかすごいことになってる。 こちらが指示したことではないと言え――ひっじょーに申し訳なくなってくるが、やっぱり謝るべきだよなあ……。 ――こちら側のインサートポッドが開き、中から相棒――ハイマニューバトライク、イーダ・ストラダーレ型「ヒルデガルド」が姿を見せる。 バーチャル空間で壊されたルナピエナガレットは何事もなかったかのように彼女の顔面を覆っていた。 俺とヒルダとの目が合う――正確にはバイザー越しにだが――。ヒルダは筐体の向こう側の惨状を見やり、俺を見やり、もう一度向こう側の惨状を見て、呟いた。 「……マスター。私、また――」 「――そう。『また』、やった」 それを聞くや否や、ヒルダは脱兎のごとく駈け出した。 全長五メートルほどの筐体の上を全力疾走して向こう側にたどり着くと、その勢いそのまま―― 「――申し訳ありませんでしたわっ!」 ――スライディング土下座をした。 一瞬の事に、藤代も、彼女もマスターもぽかんとしている。 「私、貴女にとんでもないことを……。本っ当に申し訳ありませんでしたわ!」 「え、あの、いや……」 藤代はマスターの後ろに隠れておびえている。一方のマスターはバーチャル空間でのヒルダと、今目の前で土下座をしているイーダ・ストラダーレのギャップに追いつけず、目を白黒させていた。 そしてその流れでこちらを見られても、俺も困るのだが。 「あー、えっと、どうもうちのヒルダがご迷惑をおかけしました……」 俺も頭を下げる。神姫の不出来はマスターのそれだ。 それに言っちゃああれだが――ヒルダの巻き起こす騒動に頭を下げるのも、ここ一カ月で慣れた。悲しいことだが。 「あの、いや、その……どういうこと?」 藤代のマスターは周囲のギャラリーに説明を求めた。観客たちは苦笑して互いに顔を見合わせるだけである。 「まあ、挑んだ相手が悪かったよな」 「正直、こうなる予感はしてたもんね」 「ヴァイザードの仮面をはがすなってのは、なんつーか、もうここの常識だよな」 口々に言い合うギャラリーの言葉を聞き、藤代のマスターの頭にさらに疑問符が浮かぶ。 極めつけは、ヒルダの放った一言だった。 「……責任を取れ、とおっしゃるのであれば、従いますわ。藤代様。私のこと、どうかお好きなように――」 「ひっ――!」 それを聞いた瞬間、藤代はガタガタと震えだした。 先ほどの恐怖がよみがえったのか、それとも先ほどとはまったく違うヒルダの性格のギャップに恐怖を覚えたのか。 藤代はマスターの手から飛び降り、ゲーセンの入口へと逃げだした。 「うわああああああああん!」 「ま、待て! 待つんだ! 藤代――!」 当然、それを追いかけて彼女のマスターもいなくなる。 残ったのは三つ指ついて土下座していたヒルダと、天井を仰いでため息をつく俺。そして、それを見守るギャラリー達だけだった。 「……ヒルダ、戻ってこい」 「……はいですわ」 しょんぼりと肩を落としてすごすごとヒルダは戻ってくる。足元にたどり着いた彼女を拾い上げ、胸ポケットに仕舞うと俺は荷物を手に取った。 「……どうして、私はこうなんでしょうか」 「……俺に聞かれてもなあ……」 「今の私、普通ですわよね? なのに、外れてしまうとどうしてああなってしまうんでしょう」 「…………俺に聞かれてもなあ…………」 そんなすでに二十以上は繰り返した問答を今日も繰り返しながら、近くのファストフード店で待っているであろう連れと合流すべく、俺たちもゲーセンを後にする。 ――俺の神姫は、バイザーを外すと性格が豹変する、世にも珍しい二重人格の神姫だった。 ◆◇◆ 次へ トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/606.html
第壱幕 「朔-saku-」 佐鳴 武士(さなる たけし)、つまり俺が神姫の購入を決定したのは必然からだった 偶然出た街で、偶然当てた宝くじで、偶然手に入った纏まった金・・・ 偶然立ち寄ったホビーショップで、偶然していた神姫バトルを見た(余談だが、この時戦っていたのが「シルヴィア」という著名な神姫だと後で知った) 何事も無く帰途に着く・・・つもりだった。「何事も無い」と思っていた だが、既にこの時点で、俺の中に種が蒔かれたのだろう 親父も祖父も、アニメオタクや漫画マニアがそのまま大人になったような人達だった事から、土壌はしっかりあった 親父達の所有していた90年代や2000年代初頭の漫画やアニメやゲームに囲まれて育った世代だ。その後も肥料は、我ながら大量に収集した様に思う。 だから憧れが芽吹き、翌日には神姫の事で頭が一杯になっていた 原因が無ければ結果は無、種を蒔いても、土壌と肥料が悪ければ育たない 纏まった金とたまたま見た神姫バトルは偶然蒔かれた種だっただろうが・・・土壌と肥料を捨てずに持ち続けていた事は、何時か来る種を蒔く為の努力をしていた事に、この場合は相違無い それは最早「必然」と言って過言ではないだろう・・・要は、遅かれ早かれこうなっていただろうという事だ 自動ドアがのろのろと開く。何故こんなにのろいのか?俺の心は急いているのに つまりそれは俺の為にこのドアがある訳ではなく、誰に対しても平等な、機械的な反応だという事だ 「神姫」の肝はAIであると聞いた 神姫は、高性能なパソコンを搭載した玩具ではなく、身長15センチの人間だという話だ 俺にはそれはもうひとつピンと来ない表現だ。この自動ドアと違うってのは判るし、昔読んだ漫画でよく出て来たガジェットって事は判ってるが (AIなんて言われてもなぁ・・・よく判らんな?対話型ATMの凄いようなやつか?) 少なくとも「神姫が凄い玩具である」事は俺にだって判ったし、シンプルな事と格好良い事は俺にとって極めて善性だ だからその一点にのみ着目して、俺は数万円を散財するべく、普段滅多に立ち寄らない近場の家電量販店に足を運んだのだ 田舎住まいの上に土地勘が無い。加えて出不精だから、ここしか思いつかなかったのだ 看板が古臭くて、多分「ヤマシタ電器」とかそんな名前なのだろうが、文字が欠落して「ヤマシ 器」になってしまっていた (意外と中はまともだがな) やたら元気の良い店長が、近所の婆さんと世間話をしているのを尻目に店内を散策。さてMMSのコーナーは・・・と あった、結構大きくコーナーを取ってある様だ。何か同じ絵柄の箱がずらずらと山積みされている 「侍型MMS 紅緒」 いいねぇ俺好みだ。朱いパッケージが男心を程好く刺激するぜ なんでこんなに山積みなのかは・・・問わない方が良いのか?えらい安いし まぁ良いや 「すんませーん。コイツ貰えますかー?」 手近にあったやつをひとつ手に取り、店長の世間話を打ち切る 購入手続きを済ませた彩に手渡されたレシートにははっきりくっきりと 「サムライMMSベニモロ」 と打ち込まれていた …… …………… 『TYPE 紅緒 起動』 うっすらと目を開ける人形 生気の薄いマシンの瞳 「武装神姫」が起動する ゆっくり上体を起こし、周囲を見渡す『紅緒』 「登録者設定を行ってください」 おお・・・喋った・・・! と、感心している場合じゃない。マニュアルを読もうとしたが、文字が多くて面倒臭かったのでつい先に神姫を起動させてしまったのだ 「え~と・・・次はどうすりゃ良いんだ?」 「貴方が私のマスターか?」 どっかで聞いた様な台詞だな 「ちょっと待っててくれ、確かこのへんのページだった様な気がするんだが・・・」 がさがさページをめくる俺の足元に、つと近付いて来る神姫。をを・・・自分で歩いてる 「マスターの登録は声紋を取らせていただければ現状では充分です」 「あぁ・・・そうなの?面倒臭い設定とかしなくて良いのね。そりゃ助かるぜ」 振り向いた先に立っている姿・・・んぁ?太股がなんかおかしいぞ 「どうかされましたか?」 「お前・・・その足どうしたんだ?」 小さな声を上げて自分の左太股に目を落とす・・・結構際どいデザインだな、このデフォルトアンダースーツは 左の内腿から尻側にかけて、彼女(?)には痣の様なものがあった。綺麗な皮膚に薄く墨を流した様な・・・見様によっては花霞に見えなくも無い 「・・・うわ・・・どうしようこれ・・・欠品かこれ・・・その・・・」 AIとは人口知能であり、神姫とは身長15センチの人間である その事の本当の意味の一端を、俺はその時の「彼女」の表情の変化、狼狽から読み取った 羞恥、怒り、そして不安・・・ 「・・・返品・・・ですか・・・?」 マスターとして神姫に正式に登録されるには名前をつけてやる必要があるのか・・・成程な。俺はマニュアル本を閉じた 「俺の名前は佐鳴 武士。で、お前の名前は華墨(かすみ)だ・・・問題、あるか?」 泣きそうだった「彼女」は、一瞬びっくりした顔を見せたが、次の瞬間には、至高の微笑を浮かべてくれた 「はい、マスター。私は・・・華墨です・・・!」 TOPへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2144.html
ウサギのナミダ ACT 1-23 □ 「雪華さんとの対戦、受けてください……お願いします」 「なぜだ? 今俺たちがバトルしたって……ろくなことにはならないぞ」 「だって、こんなチャンスは滅多にないじゃないですか……秋葉原のチャンピオンと戦うなんて」 そういうおまえは、なんで今にも泣き出しそうな顔してるんだ? なんでそんなに必死そうなんだよ。 「お願いします、マスター……お願いします……」 何度も俺に頭を下げて頼み込むティア。 ティアが相手とのバトルを望むなんて、滅多にないことだ。 だからこそ、理由が分からない。 なんでそんなに雪華と戦いたがる? 東東京地区代表という肩書きが、ティアにとってそんなに魅力的だとは思えないのだが。 「……走れるのか?」 「はい」 結局、折れるのは俺の方だった。 肩をすくめ、ため息をつく。 ティアがそういうのならば仕方がない。 まだもめている、三人の客分の一人に、俺は声をかけた。 「……クイーン」 「なんでしょう」 「俺たちは……知っての通り、ティアの出自のことで、世間からも白眼視されているような状況だ。 ……そんな俺たちとでも、戦えるのか?」 そう。俺たちと戦うだけでも、彼らに迷惑がかかる可能性がある。 それを考えれば、すでに全国大会の代表を決めている神姫と、気安くバトルをすることなどできない。 取材されて、俺たちと対戦したことを白日の下にさらすなどもってのほかだ。 俺はそう思っていた。 だが。 「彼女の出自とバトルに、何の関係があるというのです?」 雪華は即答した。 彼女は噂や風聞で神姫を評価していない。ただ、バトルあるのみ。その姿勢こそが雪華の強さなのか。 「……わかった。対戦を受けよう」 俺の言葉に、ギャラリーがざわめく。 高村と三枝さんも、驚いたように俺を見た。 「ただし、条件がある。 そっちの事情があるにせよ、やはりマスコミの取材は受け入れられない。そこで……」 俺はこんな条件を提示した。 まず、この対戦について、一切記事にしないこと。俺とティアに対するインタビューはもちろん拒否だ。 ただ、何もなしでは三枝さんが困るだろうから、バトルの記録は許可。 また、高村たちへのインタビューなどは俺に拒否する権利がないので、記事にしない限り好きにしてもらえればいい。 妥協案ではあるが、三枝さんとクイーンの両方に面目が立つだろう。 それから、バトルのフィールドは俺が指定する。もちろん廃墟ステージだ。 「この条件が飲めるなら、対戦してもいい」 「わかりました。すべてあなたの指定通りに」 雪華の即答に、三枝さんと高村が泡を食った。 「ちょっと、雪華、相談もなし!?」 「何か不都合でも? 完全拒否よりも十分な譲歩案だと思いますが」 「でも、記事にできないっていうのは……」 「彼らはそれが困ると言っているのです。 それに、記事にするだけなら、先ほどの『エトランゼ』とのバトルで十分でしょう」 むむむ、と唸って、三枝さんは渋々承諾した。 一方の高村は、その様子を見て、先ほどの落ち着いた笑みを取り戻している。 すると、今度はギャラリーの方から声が上がった。 「おい、黒兎! クイーンとのバトルにステージの指定をするなんて、失礼だと思わないのかっ!? しかも、廃墟ステージなんて、黒兎得意のステージじゃないか! 卑怯だろ! そうまでして勝ちたいのかよっ!?」 声は、『ブラッディ・ワイバーン』のマスターのものだった。 最近、奴は何かと俺に突っかかってくる。何が気に入らないというのだろう。 ギャラリーも大半が、ワイバーンのマスターの意見に賛同して、俺にブーイングを送ってくる。 だが、何も分かっていないのは連中の方だ。 クイーンとそのマスターの意図を理解していれば、そんなことは言わない。 「……廃墟ステージの指定に、何か依存は?」 「ありませんよ? というか、僕たちの方から廃墟ステージでのバトルを提案するつもりでしたから」 笑顔の高村の言葉に、俺は頷く。ワイバーンのマスターは顔を引きつらせた。 高村たちは、ティアが廃墟や都市ステージでないとパフォーマンスを発揮できないことを知っている。 唯一無二の戦い方をする神姫とのバトルこそが望みなのだ。 そのパフォーマンスを遺憾なく発揮できるステージでなければ、彼らにとっても意味はない。 俺のステージ指定に反対するはずがないのだ。 高村の一言に、ギャラリーたちは口を噤まざるを得なかった。 俺の後ろでくすくすと笑っているのは、ミスティだろうか。 「これでいいでしょう。『ハイスピードバニー』のバトル、しかと見せてもらいます」 芝居がかった口調で、クイーンの雪華は俺とティアに言った。 「わたしも、負けません……!」 静かに言ったティアの言葉に、俺は驚きを隠せない。 かつて、これほどに闘志を燃やしているティアを見たことがない。 ティアの心境にどういう変化が起こっているのか。 ティアの台詞に、雪華は不敵な笑みを浮かべていた。 俺と高村は、バトルロンドの筐体を挟んで着席した。 ギャラリーから歓声が上がる。 そのほとんどが、クイーンへの声援だ。 やれやれ。これじゃあ、どちらがホームでどちらがアウェーかわからない。 今日の俺たちは完璧に悪役だった。 ならば、それでもかまわない。とことん悪役を演じてやろうじゃないか。 俺はバトルロンドの筐体に武装をセットアップしていく。 ティアをモニターするモバイルPCも開いた。 指示用のワイヤレスヘッドセットを耳に装着する。 久しぶりだった。この緊張感、久しく忘れていた。 準備をする俺の後ろに、ギャラリーが立った。 久住さんと大城、それから四人の女の子たち。 「いいのか? 俺の後ろで」 俺が言うと、みんながみんな頷いていた。 「言ったろ。俺たちはお前の味方だ」 「わたしはあなたの側につくって宣言しちゃったし」 久住さんに至っては、肩をすくめながらそんなことを言うので、俺はびっくりしてしまった。 四人のライトアーマーのオーナーたちは、久住さんの味方らしい。 味方がいてくれるのはありがたいことだ。 久住さんが、不意に険しい表情になって、俺に囁いた。 「気をつけて……クイーンは並の武装神姫じゃないわ」 「……そりゃあ、仮にも全国大会選手なんだから……」 俺の言葉に、久住さんが首を振った。 「もうなんて言ったらいいのか……次元が違うの」 俺は怪訝な顔をしたと思う。 久住さんの言葉は要領を得ていない。 彼女にしては歯切れの悪い答えだった。 ミスティが続ける。 「そうね……わたしたちの得意の距離に踏み込んで、真っ向勝負で、逃げなくて、こっちはあらゆる手を尽くして……それであしらわれた、って言ったら分かる?」 「……は?」 にわかには信じがたい。 身内びいきを差し引いても、ミスティは全国大会レベルの選手と互角に戦えるだけの実力がある。 アーンヴァルの飛行能力で、徹底的にミスティの弱点を突いたならともかく、ガチンコ勝負であしらうなどとは、想像もつかない。 だが、久住さんとミスティはまったく真剣な顔をしていたし、大城も虎実も頷いている。女の子たちも真面目な顔で、冗談にしてくれそうな雰囲気ではなかった。 俺も、海藤の家で、雪華のバトルは見た。 あのときの手並みも鮮やかだった。 しかし、あのバトルはアーンヴァル同士の空中戦だったから、参考にならない。 俺は戦慄する。 もしかして、とんでもない化け物を相手にするのではないのか? 「ごめんなさい。参考になるようなこと、言えなくて……」 「気にすることないよ。とんでもない相手だってことがわかっただけでも十分さ」 悔しそうな顔をした久住さんに、俺は笑いかけた。 すると、久住さんはちょっと驚いた。 「……なにか、あった?」 「なんで?」 「先週みたいに思い詰めてなくて、なんだか……ふっきれたみたい」 「ああ」 彼女はまだ知らないのかもしれない。今日の朝の報道を。 久住さんがきっかけを作ってくれたおかげで、今俺はこうして笑えている。 「だとしたら、久住さんのおかげだ」 俺が言うと、久住さんは驚いた顔をしたあと、視線をそらしてうつむいた。 ……何か悪いことを言っただろうか。 彼女の肩で、ミスティがほくそ笑んでいるのが見えた。 俺は不可解な思いに捕らわれながらも、筐体の向こうを見た。 高村が準備をすませ、こちらを見ている。 「相談は終わりましたか?」 俺はティアを見た。 「ティア、いけるか?」 「はい。大丈夫です」 ティアの返事はいつもよりもしっかりとしていて、緊張していた。 このティアの心境が、バトルにどんな影響を及ぼすだろうか? それが少し心配ではあったが。 俺は高村に告げる。 「準備OKだ。……始めよう」 「それでは」 双方のアクセスポッドが閉じて、筐体と神姫がリンクする。 スタートボタンを押す。 ファンファーレと共にディスプレイにフィールドが表示され、対戦者の名前が重なる。 『雪華 VS ティア』 バトルスタートだ。 ■ 廃墟を吹き抜ける砂塵。 いつものフィールド。得意のフィールド。 わたしはメインストリートを巡航速度で走る。 久しぶりのバトルロンドは懐かしい感じがする。 再びここに戻ってこられるとは思ってもいなかった。 今日の相手はとびきりの対戦者。 このバトルは、わたしにとっては大きな、そして唯一のチャンスだった。 だから、マスターに無理を言ってまで、対戦を受けてもらった。 わたしは、今日の対戦者に感謝しなくてはならない。 わたしを助けてくれたこと。そのときはバッテリーが切れていたので、覚えてないけれど……。 そして、わたしと対戦してくれること。 風が巻いた。 わたしの頭上を、高速で何かが駆け抜けていく。 攻撃を警戒していたけれど、ただ追い越していった。 そして、上空で優美にターンすると、わたしと向かい合う位置で、空中で静止した。 わたしは、武装した相手の姿を見て、声を失う。 美しい。 そして、圧倒的な存在感。 基本の武装はアーンヴァル・トランシェ2だけれど、細かいところが異なっている。 羽は鳥を思わせる形状の機械の羽。 捧げ持つ武器は、長大な黄金の錫杖。 気流に舞い上がる銀髪が大きく広がっている。 まるで光の粒子をまとっているかのよう。 その姿は、まさに天使。 いまならわかる。 彼女がなぜ『アーンヴァル・クイーン』と呼ばれるのか。 その堂々たる姿は、まさしく天使の女王と呼ぶにふさわしかった。 それに比べればわたしなんて、地を飛び跳ねる小さな兎に過ぎない。 「待ちこがれていました。貴女との対戦を」 白き鷹のごとき神姫は、子兎のようなわたしにそう言った。 「……なぜですか。なぜ、わたしと、なんですか」 「貴女の独自の装備と技を、身を持って感じたいからです」 それだけ? たったそれだけのために、わざわざ遠くまでやってきて、わたしと戦いたいというの? 全国大会も制覇しようという武装神姫が? わたしにはわからない。 雪華さんにとっては、それほどの価値があるようだけど、わたしはそうは思わない。 わたしなんかと戦って得るものがあるなどとは到底思えなかった。 けれど、このバトルは、わたしにとってはチャンスだった。 そう思って、自分を奮い立たせる。 わたしは小さな兎なのだとしても。 戦ってみせる。……そして勝つ。 「ならば……真剣勝負です、雪華さん!」 「望むところです、ティア!」 雪華さんとわたしの、戦いの輪舞がはじまった。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2356.html
引きずり込む深海聖堂 ダゴンちゃん戦記 それは、ありえない現象だった。 フィールドは1VS1。 敵は一体で、タイプは新型機であるテンタクルス型マリーセレス。 こちらは現行最強の火力と装甲を誇る戦車型ルムメルティアだ。 確かに言うまでも無く、索敵に優れた機種ではない。 だがそれは、ルムメルティアもそのオーナーも重々承知。 ヘッドユニットの発煙筒を肩に移植し、中身は高性能のセンサーに換装済みだ。 流石に火器型やヴァッフェシリーズには及ばないにせよ、今まで索敵に困ったことは無い。 そもそも彼女のスタイルは豪快な近接格闘を重視しつつも、センサーと大砲による遠距離精密砲撃もこなせるマルチアタッカーだ。 防御は分厚い装甲に一任し、リソース(能力)は大半を格闘戦に注ぎ込む。 遠距離では高性能なセンサーから得た情報で狙いの甘さを補いつつ、当たれば一撃と言い切れる3.5mm砲で一撃を警戒させ真に得意とする近接格闘の間合いへ誘い込む戦法を得意とする。 敵からしてみれば厄介だろう。 射撃に自信があっても、戦車型の装甲を貫ける火器は限られる。 数を撃って攻撃力を稼ごうにも敵からの射撃は一撃当たれば終わりで、こちらは何十発も打ち込まねばならない。 かと言って近接格闘に持ち込んでも腕力と装甲にモノを言わせた戦法に対処する方法が無い。 言ってみれば、格ゲで言う所のスーパーアーマー状態が常時だ。 しかも腕力は真鬼王以上。 さて、攻略法を。 と言われても大半のオーナーは困惑するだろう。 それこそ基本性能として、彼女の装甲を打ち抜ける火力が備わっていないとどうしようもない。 そして、彼女の装甲は重装甲で名高い戦車型のそれである。 神姫によってはどう戦っても勝ち目が無いのだ。 この戦法で彼女は中位ランクのトップクラスにまで上り詰めている。 あと数戦で上位ランクに達し、更に上を目指す。 その為に獲物を探していたが、既に彼女を知るオーナーが多くなり、対戦が滞り始めていた所だ。 だからこそ、あまりポイントにならない中位に上がったばかりの新型からの対戦を受け入れたのだが…。 「そもそも『見つからない』と言うのは、どういう事でありますか!!」 『―――』 宥めるマスターの声がするが、苛立ちは押さえられない。 冷静にならねばいけないと分っていても、感情はそう簡単に制御できないのだ。 なにしろ、そう。見つからないのだ。 戦闘開始から既に10分。戦闘時間の三分の一が経過している。 確かにフィールドは薄暗く、視界は全てに行き渡らない。 だが障害物の数は多くなく、たとえ光学迷彩を使用したとしても発煙筒で作り出した結界の中では無意味だ。 機体が存在する限り、それはどうしても煙を押しのける。 更には煙の成分は容赦なく装甲表面に付着し、その迷彩精度を奪い、隠れる事など許さなくなる。 仮にも上位に挑み、勝つつもりの神姫なのだ。 カメレオン如きに苦戦など論外。 搦め手など蹴散らして当然。 負けるとすればより強い神姫のみだ。 だが。 「見つからなければ勝てないのであります!!」 『―――』 「負けなければ良いと言う問題ではないのであります!! 格下相手に引き分けになればそれは敗北と大して変わらなく―――!!」 それだ!! 「それが狙いでありますか!? 引き分けてポイントを稼ごうと?」 天海のシステム上、勝った神姫は負けた神姫のポイントを奪う事が出来る。 要するに勝てばランクアップ。 負ければランクダウンと言う単純なシステムだ。 これは、上位の神姫に勝てば大きくポイントが動き、下位の神姫に勝っても変動は少ない。 下位の神姫にしてみれば、上位の神姫を相手に負けてもさして痛手ではなく、チャレンジが容易に出来る仕組みだ。 勿論上位の神姫が下位の神姫を相手に負ける事を想定するなどありえない。 上位の神姫が下位の神姫を相手にするのはハイリスク・ローリターンであるが、そもそも負ける要素が無いのだからリスクはゼロに近い。 これがランクの差が縮まればそうでもなくなるが、その場合にはリスクとリターンのローハイも極僅かだ。 だが、今回のように中位最高クラスの神姫と、中位最低クラスの神姫ならばその差は明白。 負ければ大打撃だし、引き分けでも大きくポイントが動く。 敵の狙いがその引き分けだとすれば、このような消極的な戦闘も頷ける。 つまり敵は最初から勝負をする気が―――。 べちゃ。 何か落ちてきた。 戦車型の頭の上に。 「むぐぅぅ、れありまふぅ!?」 出番が残り少ない事を察してか、こんな状況でも律儀にキャラ立ては忘れない戦車ちゃん。 そんな彼女の頭の上。 否。 頭を包み込むように鎮座したテンタクルス型神姫、マリーセレス。 「ふんぐー、であります!!」 力づくで引っぺがして地面に叩きつけるが、まるで応える様子も無いマリーセレス。 「ちゃーお」 なんて挨拶までしてくるが、戦場でその隙は命取りだ。 シングルアクションで素早く3.5mm砲を構えると、そのまま接射!! 「まだまだぁ!! であります!!」 砲身をパージし、3.5mm砲の基部にサブアームで用意しておいたパイルバンカーユニットを接続。 砲煙の中に突っ込んでそのままトリガー!! 「トドメでありますぅ!!」 最後はパイルバンカーも捨て去り、サブアームの手のひらを祈るように組んで頭上に振り上げる。 「どっせーい!! でありますよーっ!!」 一発一発が必殺に値する威力の3連コンボだ。 たとえガード状態の種型でもガードの上から削り殺す!! 「時間ばかりかかったでありますな」 ふぅふぅ、と息を荒げながら最初の砲煙が晴れるのを待つ。 と。 「奥歯から鼻の穴突っ込んで指ガタガタ言わせてやる~」 煙の中から突き出してくるRPGが二本。 「え?」 距離は至近。 回避が間に合うようなタイミングではなく。 そのまま吹き飛ばされる戦車型。 と、その脚をつかまれ強引に引き寄せられる。 「コイツまだ生きて…。え?」 「本日のお天気は晴天、所により武装神姫が降るでしょう」 発言もトンチンカンだが、それ以上に解せないのが敵の状態。 “あの”3連コンボを喰らったと言うのにほぼ無傷。 精々装甲表面に焦げ目が付いている位で、パーツの欠損どころか目立った損傷すらない。 「貴様、何者でありますか!?」 「あたし?」 くき、っと小首を傾げるテンタクルス型。 「ダゴンちゃん。……カタカナみっつでダゴンちゃん」 「そこは『通りすがりの武装神姫だ、覚えておけ!』って言う所であります!!」 「軍曹さんはよく分からないことを言う」 「じ、自分の階級まで知っているでありますか?」 得体の知れない新型に、最早勝ち目が無い事を悟る戦車型。 テンタクルス型の由来ともなっているスカート状の触手が、一本大きく振り上げられるのを見ても最早打つ手が無い。 触手の先には長戦斧。 「ゲッゲーロ」 「軍曹って、ケロロ軍曹かぁーーーーーーーーーーっ!!」 叫び終わるや否、振り下ろされた戦斧がその勝負に決着をつけた。 敗北した戦車型が、最新鋭即ち“起動したての神姫”が僅か数日で下位クラスを突破したと言う事実に気づくのはこの後だった。 ◆ さて、その十分後。 ◆ 「嘘つきぃ~~~っ!!」 「ちょ、泣かないでよ人聞きの悪い!!」 件のテンタクルス型神姫、ダゴンちゃんが、神姫センター内にあるショップのショーウィンドゥにへばりついていた。 それはもうべったりと。 テンタクルス型の触手の裏に増設された吸着機をフル活用し、ガラス面にペッタリ張り付いて、引き剥がそうとする少女に抗っている。 「買ってくれるって言ったのに、言ったのに~~~っ!!」 「そりゃ言ったけど!!」 以下、回想シーンである。 「ちょっと、ダゴンちゃん。ちゃんと戦いなさいよ。チャンスなのよ勝てば丸儲け、負けても大して痛くないし」 「今日はお日柄が悪く天中殺の日です。主にますたーが」 「あたしがかい!?」 「それに。こうやって天井にへばりついてるの、好きかもですし~」 「戦えっつーの!!」 「んじゃ~、勝ったらご褒美下さいな」 「戦乙女型の武装をフルでとか言われても無理よ。何万も出せないわ」 「500円位です」 「まぁ、それなら」 「1000円位かもでしたが~」 「1000円までなら出します。勝ちなさい」 「頭の中でこーふん剤の特売ですぅ!!」 喜色満面、真下の戦車型に向かって落ちてゆくダゴンちゃん。 「いつの間に移動してたのよ?」 「会話中に動くなと言われなかったのか!! 動くのは神姫で、動かないのは良い神姫だ~ぁ」 「あー、ホントなんでこんなキチガイ神姫になっちゃたのかしら」 以上、回想終了。 「これ650円です~。1000円以下です~。お前のかーちゃんより安いです~ぅ!!」 「あたしもね、服やら武器やら防具ならやぶさかじゃないわよ。むしろ今日は頑張ったし漱石さん2人位ならお別れできる気分よ」 「やたっ!! 3個も買えるですか!?」 「“これ”は買わない」 「なんで~」 「あんたが買おうとしているのが『首輪』だからよ!!」 非常にSMチックなデザインで、ご丁寧に鎖まで付いている。 「これをつけてご主人様こんなの恥ずかしい、って皆の前で言うのがついさっきからの夢だったのに~ぃ!!」 「捨てちまえ、そんな夢!!」 「それじゃぁあっちのボンテージでも良いですよ」 「あっちはもっとエロいでしょうが!! ……って嘘!? こんなのが1万もするの!?」 「その謎を解明するのだぁ」 「しない、って言うかお金無い」 「お財布の隠しポッケに困った時の諭吉さんが」 「なんで知ってるのよ、アンタ!?」 「お金大好き」 「人間はみんなアンタ以上にお金が好きよ!!」 「齧るの?」 「齧らんわい!!」 「しゃぶる?」 「しゃぶらん!!」 「舐める?」 「舐めんな!!」 「犯す?」 「おk―――、花も恥らうJCにナニ言わすんじゃこのエロ神姫!!」 「せっくす」 「言うかぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「性別って英語」 「知ってるわよそんぐらい、脱ゆとり世代舐めんな!!」 「りぴーとあふたーみぃ“せっくす”」 「言えるかアホぉ!!」 「せっくす、せっくす!!」 「言わないわよ」 「せっくす、せっくす!!」 「……黙秘権を行使します」 「せっくす、せっくす!!」 そろそろ周囲がザワついて来た。 「せっくす、せっくす!!」 「だぁー、もう!! せっくすせっくす連呼すんな恥ずかしいでしょうが!!」 「ぱぁ~っ」(満足げ) 「あ!!」 かなりの大声で叫んでしまった。 「えっと、その」 周囲の視線が刺さる刺さる。 「違うんですよ。ほら」 あんな若い内からやーねー的な白い目の包囲網。 「これにはその、深い事情が」 メール打ってるやつ複数確認。 「逃げるわよダゴンちゃん!!」 「やだ」 逃走に移ろうとした手を引っ張るテンタクルス。 その触手はいまだベッタリとガラスケースに密着中だ。 「買ってくれたら離れてあげます」 「あんたは~」 「せっくす、せっくす」 「分ったわよ、買う。買います。買うから黙っててぇ!!」 こうしてダゴンちゃんは戦車型のみならず己がマスターにすら打ち勝ったのである。 対戦成績 引き摺りこむ深海聖堂:ダゴンちゃん。 VS戦車型:あっしょー。特に記載する事もない10分間。実質1分でケリついたし。 VS貴宮湊:しんしょー。流石にますたー超強敵。エロスに耐性があったらやばかった。 ダゴンちゃん戦記・姦!! 「字間違った」 ダゴンちゃん戦記・完!! テンタクルス型発売記念SS。 続くかどうかは未定。 しかしマリーセレス以上にラプティアスとアーティルの完成度が異常。 テンタクルス型も充分以上に楽しんですがね。 鷲&山猫はSS書きたいですが書くとアスカ以上の長編になりそう。 マリーセレス買った勢いでSS書いたALCでした。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/300.html
凪さん家の弁慶ちゃん 「まずいわね…」 ここは私立黒葉学園、高等部校舎の三階、階段踊り場。 「…何が…?」 壁にもたれかかっている男が聞き返す。 「まずいじゃないの」 踊り場の窓から外を見ながら答える女。 「だから何が…」 再び聞き返す男。その肩には小さな少女が佇んでいる。 「何がって決まっているでしょ?」 若干焦っているような声色で答える女。その肩にも小さな少女。 「…わかりやすく言え…」 呆れたように訊く男。 「まずいわ…即戦力が必要よ…」 腕を組みながら考え込む女。 「なんの…?」 明後日の方向を見つつ訊く男。 「はぁ~。あのねぇ?それはもちろん…」 女はやれやれといった表情で言い放つ… 「この私立黒葉学園神姫部のよ!!」 第一話【求む!君の力!】 静まり返る踊り場。 「…まぁ、まだ「部」じゃないけどな…」 「う、うるさいわね!」 「むしろ同好会なのかすら怪しい」 「うるさいってば…!」 「まぁまぁマスター」 と、今まで黙っていた小さな少女。女の肩に乗っていた一人が口を開いた。 「何よアーサーまで~」 「いえ、反論しているわけではないですよ?」 「まぁ、それはわかってるわよ…」 「…同好会の申請をしてから一ヶ月以内に五人集まらなければ解散…か…」 男が呟く。 「そうよ。で今四人揃っているわ!」 「でも必要人数は五人…期限は明日まで」 今まで黙っていた男の肩に乗っていた小さな少女がぼそりと言う。 「もう誰でも良いから数合わせに入れたら良い…」 「それじゃ駄目よ!欲しいのは即戦力よ!クラスはセカンド!もしくはそれに準ずるポイント獲得者よ!」 「高校でセカンドなんて中々いないだろうに…」 「そうよ!だからサードの上の上でも良いって言ってるじゃない!」 「ほとんど同じだろ…」 「うるさいわね~今集まったメンバーを見なさいよ! 四人中私とあんたとあいつがセカンド、あいつの妹がサードの上位! ここまでこだわって集めたんだから、いま諦めたら後悔後の祭りじゃない!!」 「だから人が集まらないんだろ?」 「ぐ…」 「…とりあえず…それはいいから神姫センターに行ってポイント稼ぎでもしよう…」 「と、とりあえずとは何よ!」 「それに…」 「…?何よ」 「今からなら学校帰りの奴らが参戦しているかもしれないだろ…」 「…あ、なるほど…よ~し!絶対スカウトしてやる!!」 「はぁ…」 男はため息をついた。どうしたものやら…と。 「いけ!弁慶!!」 「…うん」 広大なバトルフィールド。 荒野を駆ける神姫が一体。 対するは地上を滑るように飛行する神姫。 弁慶と呼ばれた神姫は大地を蹴り、一気に跳躍する。 その右手には巨大な塊。それは【セブン】と呼ばれていた。 【セブン】とはその名の如く、七つの装備が合わさった弁慶が使用するカスタム武装である。 この【セブン】はAM社のパイルバンカーをベースに様々な武装で構成されている。 その装備は一番から 1.パイルバンカー 2.キャノン砲 3.ガトリング砲 4.2連装ビームバスター 5.ミサイルランチャー 6.手榴弾ポッド 7.光の翼 で構成され、状況に合わせて武装を選択、もしくは組み合わせることによって数々の戦局に対応可能にした万能装備である。 しかしその装備重量は通常の武装神姫用装備と比べ、はるかに重く、普通に使用するだけでも多大な苦労を有する。 だが、そんな武装をぱっと見軽々と扱っていられるのは七番目の武装【光の翼】という補助推進システムのお陰である。 逆にこれが機能しなかった場合は単なるカウンターウエイトにしかならないであろう。 地上を駆ける弁慶も、この【光の翼】をたくみに使用して【セブン】を制御している。 これの使い方を理解していない普通の神姫にとっては【光の翼】を使用してもこの巨大な代物を制御するのでやっとで、満足に扱う事はできないだろう。 この【セブン】を満足に扱えるのはマスターの凪千空と共に設計した凪千空の武装神姫、犬型ハウリンがベースの弁慶のみ。 そういう意味では単純に使うだけ、持つだけならなら誰でも出来るこの【セブン】も事実上は弁慶専用の装備と言えるだろう。 そんな弁慶は今日、後一勝でセカンド昇格をかけた試合に赴いていた。 「飛んで!弁慶!」 「…うん」 相手の大型ビームをジャンプで回避、セブンに装備された光の翼を使用して空に浮いた状態から横へ移動。 さっきまでいた場所はビームによって焼かれていた。 「今日は絶対勝つんだから!」 「…うん…!」 「三番で牽制、五番で包囲、七番使用で接近して一番!」 「…わかった…!」 弁慶は相手に対し三番のガトリングを乱射。命中が目的ではないので標準は適当。 「…いけ…」 発射されるミサイル群。しかし相手の移動速度は凄まじい。 「速いなぁ…」 「ミサイル追いつかない…どうする…?」 「ん…よぅし、ミサイルに気をとられているうちに七番で最大加速しよう!そして一番!」 「…言うと思った」 「えへ」 「…ふふ」 やっぱり弁慶は凄いなぁ。言ってる途中から言おうとした行動を実行してる。 「…突撃…!」 広がる翼、その瞬間弁慶の姿が霞んで消える。 狙うは相手の神姫。マオチャオに大型のブースターを多数装備して機動力を向上させているみたい。 「…はぁぁぁ…!」 弁慶が一番、パイルバンカーを突き出す体制に移行する。 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」 相手の斜め後方から一気に突貫する弁慶。でも 「あまいの!」 「…!」 相手マオチャオが急激に方向転換。 ぐるりと一回りしたのち、背部ブースターがその回転によって質量攻撃となり、偶然なのか狙ってなのか…接近しすぎた弁慶に打ち付けられる。 「…くぅ…!」 ドガァァァァァン!! セブンで何とか防御するもはるか遠くへと吹っ飛ばされる弁慶。 そのまま盛り上がった岩の壁に激突する。 「大丈夫!?」 僕は思わず叫ぶ。 「…痛い…でも平気」 岩の瓦礫の中から立ち上がる弁慶。 「注意して!」 次が来るかも!! 「…もうしてるよ」 光の翼を再び展開させて飛び上がる弁慶。 「…どこ…?」 「いない…?」 上空から索敵する。もちろん的にならないように小刻みに軌道を変えて。 「ここだよ!」 「…!」 いきなり下から声。 「弁慶!」 「…わ…!」 下方からのクローアッパーが弁慶を襲う。 弁慶はそれを何とか回避、でも 「ぐぅ…!?」 あるはずのない背中からの衝撃。その衝撃で地面に落下、そのまま激突する。 「な、なに…?」 よろりと立ち上がる弁慶。 「弁慶!右!いや左…え、えぇぇぇぇ!?」 「千空?なに??…え…何だこれ…」 僕達は驚くしかなかった。だって… 「ねぇ、なんかマオチャオがいっぱいいるように見えるんだけど…」 「うん…そう見える…」 弁慶の周囲にはブースターを排除した相手マオチャオがいた。 いっぱい…。 「「??????」」 「いくの!」 と相手マオチャオがう動きを見せる。時には一人、時には二人、三人四人と増えたり減ったり。弁慶の周囲をめまぐるしく動いている。 「え…。うあ…!」 正面からの爪が弁慶にヒットする。次は右、後ろ、左と思わせてまた前…四方八方からの攻撃を受ける弁慶。この状況じゃセブンは盾にしかならない。 「ぐ、あ、わにゃ、くぅ…」 「え、~と…!?」 焦る僕。ええと、こんなの初めてなんだけど~!! 「落ち着け千空…まだ大丈夫…」 「…弁慶…。良ぉし!!七番最大!あれ使っちゃうよ!!」 「…わかった…!」 光の翼を限界起動させる。紅く輝く翼が弁慶を包む。 「にゃ!?」 一瞬ひるむマオチャオ。 「今だ!弁慶ぇ!!」 「…うん…!!」 一気に飛び上がる弁慶。その高度はステージの上昇限界まで達している。 そして今度は一気に急降下。内臓火器を一斉発射して周囲を爆撃。 ガトリングが鋼鉄の雨となり、ミサイルの渦が嵐を呼ぶ。その雲の合間から煌くビームランチャーの光と流星の如く降り注ぐキャノン砲の追撃。おまけに手榴弾ポッドの隕石がマオチャオがいた周囲に降り注ぐ。 これらは当たらなくても良い。当てるのは一つだけで良い! 「わ、わわわぁぁぁ~!!」 いきなりの災厄に驚くマオチャオ。 響く爆音。その時、何の影響かはわからないけれどたくさんいたマオチャオが消えて、一人になった。 「…ラッキー!見えたよ…!」 「…そこ!!」 「え、うそぉ!?」 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」 後は突撃あるのみ!持ち方を変えてパイルバンカーを準備! 僕と弁慶の二人の声が合わさってその名を叫ぶ。 「「七つの混沌(セブン・オブ・カオス)!!」」 ドッゴォォォォォォォン!! パイルバンカーの射突音がステージ内に響く。 「やった…??」 バチバチ… 「……く…」 弁慶の苦い声。 「浅い…の!」 とたんマオチャオの声が響き閃光が走る。それと共に辺りを覆っていた硝煙が吹き飛んだ。 「ねここぉぉ!フィンガー!!!」 「…ぐ、あぁぁ…」 弁慶の苦しそうな声がインカムに響く。 「弁慶!」 弁慶を包む凄まじいスパーク。その出所であるクローは弁慶の腹部に突き刺さり、その体を貫いていた。 「すぱぁく、えんどぉぉぉぉぉぉ!!!」 「くぅ…!!」 一気に閃光が強くなり弁慶が黄色い光に包まれる。 「弁慶!!」 光がやむ。その体から爪が引き抜かれ、ドサリと崩れる弁慶。 「弁慶!!弁慶!!」 「やったの!…え」 勝利を確信するマオチャオこと、対戦相手のねここちゃん。でもその表情が変わる。 「…ぐ…ぅ」 ぐらりと立ち上がる弁慶。セブンを支えにしてキッとねここちゃんを睨む。 さすがに驚いた。 「べ、弁慶…?」 「…はぁ…はぁ…」 ずりずりと体を引きずりながらもなおねここちゃんに接近する弁慶。 「だ、駄目だよ!動いちゃ!」 思わず気遣うねここ。 「…うるさい…まだ負けてない…」 「弁慶!もう良いよ!ねここちゃんの言う通りだよ!」 「…千空…勝つって言った…だから嫌だ…」 「はぁぁあぁぁ~!」 セブンを大きく振りかぶる弁慶。 あまりの威圧にねここちゃんの動きが固まる。 「サド…ン…インパクト…!!」 ドッカァァァァンン!! 響く炸裂音。その鉄槌は当初狙っていたであろう腹部から大きく外れ、ねここちゃんの左肩を掠っただけだった。 それが最後の力だったのかよろけて倒れこむ弁慶。 その瞬間 『試合終了。Winner,ねここ』 ジャッジAIの機械音声が合図を告げた。 「弁慶…」 「…」 マシン内でうなだれる弁慶。 「弁慶?」 「…ごめん…負けた…強かった…」 「うん、強かった。でも弁慶も良くやったってば」 「でもセカンド上がれない…」 「そうだね…セカンド昇格はねここちゃんだね…さすがって感じ」 「…ごめん…駄目な奴で」 「そんな事無いよ!」 「千空…」 「追いついて勝てば良いんだよ!ほら、前負けてから五連勝だよ?だから次は六連勝だって!」 「千空…うん…今度は負けない…あ…」 「ん?」 「駄目だ…」 「え?」 「セブンが…」 「…!」 あらら、完全にショートしてる…。セブンは戦闘システム直結型だから…内部ダメージが限界を超えたかぁ…それとも無茶な強化が祟って寿命がきたかな…。 「ごめん…」 「いいって、また二人で作ろう?」 「千空…」 「もっと強いの作っちゃおう!!」 「…うん…うん!!」 「じゃ、早速帰って製作開始だよ!」 「うん!!」 「どう?」 ねここ対弁慶。その試合映像を見ていた女が聞く。 「良いんじゃないか?」 男が答える。 「そうよね!!間違いないわ!!」 女は意気込んだ。 「さぁ、どうしよっか?」 「…うぅ~ん」 僕達はセブンについてあれやこれやと考えながら帰路につこうとしていた。 そんなセンターの入り口に人影。 「ちょいとそこの君君!!」 「?」 振り向くと女の人と男の人。あ、制服がうちと一緒だ…て事は黒葉学園の生徒? 「そう!君!!」 女の人が僕を指差す。 「その制服は黒葉学園の制服!つまりは生徒!そして神姫所持者でランクはサード上位!!」 「へ、あ、はい…」 僕と弁慶はきょとんとしていた。 「求む!君の力!!黒葉学園神姫部に来なさい!!」 「え、えぇぇぇぇぇぇ~????」 いきなり出てきてこの人は何なんだろう…神姫部?そんな部活あったかな…? そんな僕の疑問を尻目に、僕と弁慶の、神姫を取り巻く世界は確実に動き出した。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/825.html
『"NOTRE-DAME" MARIE DE LA LUNE vs "ZYRDARYA" LALE SAITO』 仮想バトルフィールド上空に、文字が映し出された。 そしてその文字の横に数字が現れてバトルの開始時間をカウントダウンし始める。 「えっと、とりあえず、何したらいいのかな?」 私は目の前のクレードルで眠るマリーに聞いた。彼女の意識は今、筐体の中の電脳空間にいるのだけど、不思議なことに返事は現実の、クレードルの中のマリーから帰ってくる。 「まずはウォードレスを展開させてくださいませ。そうすればあとは私が美しく戦ってみせますわ」 「そっか。頑張ってね、マリー」 「はいっ」 マリーは目を閉じたままにっこりと笑った。 カウントダウンは最後の十秒を切る。電子音と一緒に数字はどんどん小さくなっていった。 開始三秒前、上空の文字は『READY』に変わる。 「いきますわ、のどか様」 私は軽く頷く。そして数字はゼロを示した。 「マリー、ウォードレス展開!」 そう言うと、マリーのドレスの裾のディティールが伸びて、前面ののこぎりのような形をした二本が、自由に動くライトセーバーのように、その他は小さな砲身を現して追撃用の機関砲になった。マリーはかなり可愛いものを選んだと思っていたけど、実際に展開したものを見ると意外とかっこいいものだ。 同時に相手は右手のポーレンホーミングを放つ。ハンドガンだというのにその弾は弧を描いて一つ一つがマリーを追う。その間にラーレはマリーとの間合いを詰めた。 マリーは飛びながらポーレンホーミングの弾を避けようとした。けれども高い誘導性能を誇るその弾は進行方向を百八十度変えてなおマリーを追った。そこへ猛スピードで間合いを詰めながら剣を構えるラーレがマリーの視界に入る。 「速いですわ」 関心しつつもマリーはウォードレスの機関砲をホーミングの弾へと向けて放った。そして両手で傘を持ち、ラーレの剣を受け止める構えを取った。 機関砲から発せられた弾幕は見事にポーレンホーミングを全て打ち落とし、とりあえずマリーは背後からの脅威から解放された。しかし次の瞬間、甲高い金属音と共にマリーとラーレは初めてお互いを至近距離で認識し合う。 「いいドレスですね」 鍔迫り合いをしながらラーレが言う。 「ありがとうございます。あなたのその銃も面白いですわ」 マリーがそう言い返すとラーレは不敵に笑った。 ††† カトー模型店の扉が開き、男が一人、入る。 「こんにちは、カトーさん。なんか盛り上がってますね」 「やあ、時裕君。今ね、のどかちゃんが戦ってるんだよ」 「あいつが?へえ、相手は?」 「斎藤香子ちゃん」 「...うちの妹に嫌がらせですか」 「いやいや、丁度女の子同士でいいと思って」 「のどかに香子ちゃんは倒せないでしょう。だって彼女は」 「それが結構頑張ってるんだよ、のどかちゃん」 「まだ香子ちゃんが手加減してるんじゃないですか?」 「そうだね...まだ"チューリップ"を使ってないところを見ると...」 「この店のオリジナルウェポンをあそこまで使いこなせるのは彼女だけですよ」 「うれしいことだねえ」 「ああ、哀れかな我が妹よ」 「君は本当にのどかちゃんのことが好きなんだな」 「そりゃあもう。アーニャの次に」 二人の男は再び視線を筐体に戻す。 ††† 数回、斬りあった後、ラーレはうしろに退いて、広めの間合いをとった。そしてまたポーレンホーミングを打つと、今度は腰から先にチューリップを模した飾りをつけた棒を取り出す。マリーは打撃系、もしくは投擲系の武装だと思って、傘をソードモードからライフルモードに構え直した。先のような急速接近で瞬時に懐まで迫らせないようにするためだ。 ポーレンホーミングから放たれた高誘導弾は例のごとくマリーのドレスに打ち落とされる。恐らくラーレはポーレンホーミングを決定力のある装備ではなく、間合いを取ったり、対戦相手を自分の思う場所に誘導するための補助的な装備であると考えているだろう。 手に持った棒を、ラーレは器用に片手でクルクルと回す。ジルダリアのスレンダーな体型も味方して、その姿はバトン競技のトッププロのようだ。 「今日が初めてのバトルのあなたに、こんな仕打ちはひどいかもしれませんが...マスターの記録を更新するために、全力で勝たせていただきます」 「光栄ですわ」 そう言ってラーレは回すのを止めた。そしてユピテルが雷を放つように、その棒をマリーに向かって投げた。 「ジャベリンですわね」 マリーは当然のようにそれを避けようとしたが、その前に飛んでいる棒の先のチューリップが開き、そこからさらに何かが発せられる。霧のようなそれは僅かにマリーの足に付着した。 乾いた音をたてて棒は着地した。その様子を見届けてラーレはまた手に剣を握る。 「さっきのは一体なんなんですの?」 「すぐにわかります」 二体の神姫は再び剣による近接格闘戦を始めた。マリーは傘で攻撃しつつも、ドレスで細かく間合いを取り、ラーレも主となる攻撃は剣であるものの、ポーレンホーミングを巧く使い見事に隙を埋める。単純な斬り合いのように見えるが、実際は双方が一瞬の隙を伺い合う頭脳戦であった。 しかしそれがしばらく続いたあと、マリーは異変に気づいた。足の動きがだんだんと鈍くなっていったのだ。sそれもさっきの霧のようなものが付着したあたりから。 「これは...?」 「効いてきたようですね。あの杖――トライアンフは麻痺性の液体を高圧噴射するものです。こっちのフレグランスキラーと違ってあの杖は遅効性。ゆっくりと、気づかないうちに機能を停止させるのです」 ラーレが説明する間も、非常に遅いスピードで、しかし確実にマリーの足は動きを遅くしていった。 『マリー!大丈夫!?』 「大丈夫ですから、のどか様は今と同じ指令を続けてください」 『左だよっ、マリー!』 気がつかないうちに、気づけない間にラーレが放った最後のポーレンホーミングの弾がすぐそこまでマリーに迫る。咄嗟にドレスの機関砲を向けたが、間に合わなかった。七発中の二発がマリーに直撃し、マリーの体が飛ぶ。胸元の赤いリボン状のディティールが煤けた。 「んっ...」 初めてマリーが苦痛の声を上げた。 『ねえ、もう止めようよ!もう少し強い装備にしてからまたやればいいからっ!』 「それは...ダメですわ...」 『マリー...』 「わたくしは人形型武装神姫。この姿で勝てるようにならなければ意味がないのですわ!」 マリーは再び立ち上がった。足はすでにただ体重を支えるだけの棒となっていたがなんとかバランスをとって傘を構える。 「...次が最後ですね」 ラーレが言う。彼女もまた剣を構えた。 その数秒後、ラーレが風を斬る。 ――ほんの刹那の後、ラーレの剣の切っ先はマリーの首筋に迫っていた。 ††† 「えっ?神姫バトルを始めてからずっと無敗だった!?」 香子ちゃんは静かに頷いて、彼女の肌理細やかで白い頬がうっすらと桃色に染まる。私はそんな仰天事実に開いた口が塞がらなかった。 「カトーさんの勧めで始めたんですけど...」 「そう。一戦目からずっと負けなし、四十七戦連勝。この店のオリジナルウェポン"チューリップ"を使いこなす戦い方は毒を持つ可憐な花そのもの。いつしか『プリンセス・オブ・ワイトドリーム』の通り名で呼ばれるようになった俺たちのアイドルだ!」 私と香子ちゃんはその声の主のほうへ顔を向けた。いや、私はその声が誰のものかわかっていたのだけれど、あまりのバカっぷりに向きたくなくても向いてしまったのだ。まわりで同調してる男の子たちもちょっとアレな感じだけど、こんなバカなことを堂々と言えるのはお兄ちゃんだけだろう。 「いつからいたの?」 「お前が負けそうになってたころから」 お兄ちゃんの肩に乗ったアーニャがお辞儀をした。 「あ、あの...のどかさんと時裕さんってお知り合いなんですか?」 香子ちゃんは私とお兄ちゃんの顔を交互に見て言う。その様子が少しおどおどとしていて、私は不思議に思った。 「うん、知り合い、兄妹。ていうか、香子ちゃんがお兄ちゃんの名前知ってるほうがびっくりだよ」 「そりゃお前、俺は香子ちゃんファンクラブ(ナイツ・オブ・ワイトドリーム)の会員ナンバー一番だからな。当然だろ」 「よかった...」 『よかった』...?えーと、この何気ない彼女の言葉からとてつもなく危険な香りがする。 それだけはダメな気がする。なんというか、香子ちゃんの将来的に。 とりあえずお兄ちゃんのほうに警告しておこう。 「ダメだよっ!妹と同級生の娘に手を出すなんて、大人として!」 私はお兄ちゃんの耳元で小さく言った。お兄ちゃんは何のことだ、という顔をしたのでそれ以上は何も言わなかった。 「しかし、俺は悲しいぞ、妹よ。そんな我らのアイドルをあんなふうに倒してしまうなんて。お前は香子ちゃんが可哀想だと思わんのか」 「いえ、負けは負けですし、私も調子に乗ってたんです。それにマリーさんはとっても強かったです」 香子ちゃんの制服のポケットからラーレが顔を出してそう言った。 ††† ――確かにラーレの剣の切っ先はマリーの喉に迫ろうとしていた。 しかしそれはあくまで迫ろうとしていたのである。 数ミリ手元を動かせば切っ先は間違いなく突き刺さる位置ではあったが、ラーレはそれ以上動けなかった。彼女の腹にはマリーの傘の先がピッタリと、一ミリの隙間もなく触れて、さらに両脇を、二本のクワガタの角のようなウォードレスの武装が挟み込んでいたからだった。 「少し、手元がブレましたわね」 マリーが言った。 ††† 「人形は少しも狂いのない精密な造りであって初めて、価値があるのですわ」 マリーが私の頭の上をふわふわと浮きながら得意気にそう答えた。 「うむ、素晴らしい。それでこそ人形型武装神姫ノートルダムだな」 「細かい設定と調整はみんなお兄ちゃんでしょ」 「だから素晴らしいって言ったんだ」 私は深くため息を吐いた。お兄ちゃんの無駄に自信満々な言葉に呆れたのもあるけれど、それをキラキラと輝く目で見つめる香子ちゃんにもちょっと呆れたからだ。 「さて、のどかちゃん、マリーちゃん。どうだった初めてのバトル、しかも勝利の味は?」 カトーさんが私たちにそう尋ねた。 私はマリーの顔を覗く。彼女もまた私のほうに顔を向けた。 「楽しかったですわ」 「そうだね、楽しかった」 それはよかった、とカトーさんは笑った。 「香子ちゃん、今度またバトルしようね」 「ええ。次は負けませんよ」 作品トップ | 前半
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2299.html
キズナのキセキ ACT1-4「敗北の記憶 その2」 ◆ その日、菜々子は、C駅にほど近いゲームセンターで噂を聞いた。 C港の倉庫街の一角、使用されていない倉庫を改装し、武装神姫の裏バトルが行われる。 主催は、神姫にハマっている、若手の不良グループだ。 菜々子はその裏バトルに誘われたのだ。 菜々子とミスティが『エトランゼ』として名前を売りながら、公式試合に一切関わらないのは、こうして裏バトルの情報を得るためだった。 裏バトルも、主催者にしてみれば興行だから、名の売れた神姫に出場してもらえれば、話題が取れる。 出場選手も、観客も増える。 だが、公式戦出場神姫で有名になればなるほど、そういう危ない場所には近づかない。 裏バトルには、犯罪が絡んでいる場合が多いのだ。 罪を犯せば、公式戦のランキングは剥奪されてしまう。 だから、公式戦に出ない有名な神姫は、裏バトルのスカウトとしては格好の標的だった。 そう、菜々子のように。 「あんた、強ぇ神姫と戦いたいんだろ? だったら来いよ、他にも強者がたくさん参戦予定だ」 「へえ、どんな神姫が来るの?」 裏バトルの主催の一人だと名乗ったヤンキー風の男に、菜々子は首を傾げてみせる。 男は得意げに、指折り数えて神姫の名前を挙げた。 「そうだな……『フレイム・エッジ』とか、『百目の天使』とか……」 「『狂乱の聖女』は出る?」 「ん? ああ……よく知ってるな。そいつはメインイベンターさ」 ビンゴ。 久々の確定情報だった。 「なんだ? 『狂乱の聖女』とバトルしてぇのか?」 「まあ、ね。噂に聞くところでは、強いって話だし?」 「あいつは別格だよ。強いなんてもんじゃねぇ。 ……でも悪いな。あいつはもう相手が決まってるんだ。 『狂乱の聖女』を目の敵にしてる奴だから、代わってはもらえないだろうしなあ」 『狂乱の聖女』に戦いを挑む者は多い。 裏バトルでのネームバリューとしては、知る人ぞ知る、という程度だ。 しかし、その圧倒的な強さを制して名を挙げようとする者は後を絶たない。 また、個人的な恨みも多数買っている。 どうも、次の対戦相手は後者のようだ。 「だから、とりあえず次は、別の対戦相手を用意するぜ。他にも強えのはたくさんいる」 「ごめんなさい。今は『狂乱の聖女』しか興味ないの」 菜々子はそう言って、にっこり笑った。 とりあえず、次回の裏バトルは観戦しに行くことを約束した。 ヤンキー風の男は、それでも今日のところは引き下がった。 裏バトル会場に『エトランゼ』を連れてきただけでも、彼の評価は上がるだろう。 だが、菜々子は、裏バトルに出場する気はまったくなかった。 ◆ 土曜日の夜は長い。 翌日は日曜日という安心感で、どこの繁華街も夜遅くまで盛り上がる。 表通りはもちろんのこと、裏通りの飲み屋やゲームセンター、路地裏の屋台、さらに裏の賭博場まで。 ここ、C港の倉庫にある裏バトル会場も例外ではなかった。 外は寒々とした倉庫街の一角で、週末の夜など人も車も滅多に通らない。 そんな外の様子とは裏腹に、武装神姫の裏バトル会場になっている倉庫の中は、異様な熱気に包まれていた。 ここの裏バトルは、仕切が若い連中のためか、セキュリティよりも盛り上がり重視、といった感じだった。 集客も多い。客層も、学生風の若者から、マニアっぽい年輩組まで、意外に幅広い。 裏バトルは警察の目をおそれて、秘匿性を高めるため、多くの場合、限られた会員のみ招待される方式を取る。 だが、菜々子がみたところ、ここでは客の出入りもそう厳しくない。会員の友人であれば入れるような有様だ。 使われていない倉庫は、急造のバトルロンド会場になっていた。 ただ、神姫センターなどと違い、バトルロンドの対戦筐体は一組だけ。 正面には大きなスクリーンが設置され、プロジェクターでバトルの様子を映し出している。 そのスクリーンが見えるように、観客席が配置されている。 廃品のソファやテーブルが雑多に並べられただけの粗末なものだが、観客たちは気にしていない。 酒やジャンクフードが運び込まれ、客に振る舞われる。 この飲食代も、主催の収入源だ。 客は次々と行われるバトルをネタに、賭に興じている。 ルールは至ってシンプル。 どちらが勝つか。 プロジェクターには、賭けの始まっている試合の対戦カードが表示されている。 それぞれの試合に賭け率が設定され、客は思い思いにギャンブルに興じている。 バトルが映し出されると、歓声がわっ、と沸く。 人気の高い神姫なら、さらに盛り上がる。 人気の高さは勝率の高さに比例する。それがどんな武装、どんな戦い方をしていようとも、勝負に強い方が好まれる。 裏バトルで「魅せる戦い」など意味がない。 どちらが勝つか。 裏バトルのバトルロンドでは、それだけがルールだ。 武装も改造も無制限のレギュレーションなし。 バトル自体はバーチャルだが、過激なバトル展開になる。 公式戦ではないゲームセンターでの草バトルでも、ジャッジAIが判定を下した時点で試合は終了となる。 しかし、裏バトルはそうではない。 たとえ明らかに勝敗が決まっていても、試合は終わらない。 神姫が完全に機能を停止するところまでやる。 ジャッジAIも改造されていて、そうなるまでやめない。 神姫が負けを認めても、泣き叫んでも、試合は終わらないのだ。 そんなことをすれば、たとえバーチャルバトルでも、神姫のAIに障害を残すこともある。 そんな残虐性も、裏バトルに観客が集まる理由の一つだ。 時には、客の要望で、リアルバトルも行われる。 もちろん、どちらかが破壊されるまで終わらない。 神姫の断末魔の叫びに、ギャラリーは気違いじみた熱狂ぶりを見せる。 公式戦では絶対に見られない残虐ショー。 神姫がかわいそうだ、などと思う者はいない。 出場する神姫マスターからしてそうなのだ。 神姫の気持ちを省みることなどない。 ただ勝つために、無理な改造を神姫に施したり、壊れれば躊躇なく廃棄する。 そんな裏バトルの性質に、菜々子は憎悪すら抱いていた。 ここに集まる者は、みんな人間の屑だ。 神姫の「心」を尊重することのない、下衆の集まりだ。 近寄ることすら汚らわしい。 だが、その裏バトルに君臨するのが、本当の姉のように敬愛した女性なのだ。 菜々子は不安を感じずにはいられない。 あおいお姉さまは、そんな神姫マスターではなかったはずだ。 菜々子に神姫マスターのなんたるかを教えてくれたのは、他ならぬ桐島あおいなのだ。 一体何が彼女を変えてしまったのだろう。 そんなことを考えながら、菜々子は、裏バトル会場の隅で隠れるように、ステージの方を見ていた。 これからメインイベント、今夜もっとも注目の試合が始まろうとしている。 スカウトの男の話によれば、ここで『狂乱の聖女』が出場する、とのことなのだが。 やがて、二人の神姫マスターが、筐体の前に姿を現した。 片方は、坊主頭で目つきの悪いヤンキー風の男。試合前からエキサイトしている様子だ。 その反対側から。 その女性は風のように、ふわり、とやって来た。 淡い色のコートに、ベレー帽。 かすかに浮かぶ微笑は、相手の興奮など気にも留めてもいない様子だ。 間違いない。あの人は…… 「お姉さま……」 菜々子は口の中だけで、呟く。 久々に見る桐島あおいは、記憶の彼女と大きく違わなかった。 前回見たのは半年以上前だ。 そのときも裏バトル会場で、そのときも今日のように隠れて見ていた。 相変わらずの美貌に、菜々子は思わず見とれてしまいそうになる。 だが、首を振り、甘い憧憬を振り払う。 真剣な眼差しで、ステージを見た。 ステージ上では、相手のヤンキーが、マイクに唾を飛ばしながらあおいを罵っていた。 以前、別の裏バトルで、仲間ともども徹底的に叩きのめされたらしい。 それが原因で、仲間たちも武装神姫から離れ、彼一人になったという。 「だが今日は負けねぇ! 仲間の弔い合戦だ! けちょんけちょんにしてやる!」 男の恫喝じみた吠え声を、あおいはさらりと受け流した。 「……いいたいことはバトルで語ってくれる?」 余裕の言葉に、相手は顔を真っ赤にして、さらにヒートアップした。 あんなにオーバーヒート気味の様子では、勝てる試合も勝てないのではないか、と菜々子は思う。 対照的な二人は筐体の前に座り、ほどなくバトルが始まった。 それは、圧倒的としかいいようのない試合だった。 『狂乱の聖女』にかすり傷すら負わせることができず、相手の神姫は完膚なきまでに破壊され、敗北した。 ギャラリーはしばらく沈黙に支配された。 あまりに一方的な破壊劇。 背筋が寒くなるような勝利。 だが、数瞬後には、歓声が溢れた。 賭けに勝った客は喜びに叫び、負けた客はチケットを投げ捨てながら悪態に叫ぶ。 チケットが、まるで花吹雪のように舞い散っている。 ステージ上では、桐島あおいが変わらぬ微笑みを浮かべている。 その微笑が、菜々子には作り物めいて見えた。 喧噪の中、菜々子はそっとその場を離れた。 誰にも気付かれぬように。 菜々子の戦いは、これから始まるのだ。 ◆ 長い土曜の夜も、まだ宵の口である。 裏バトル会場では、まだ対戦が続き、盛り上がっていたが、桐島あおいは一人、外に出た。 アタッシュケースを左手に下げている。 雪が降り始めていた。 あおいはコートの襟を立て、路地をゆっくりと歩き出す。 あたりは冷たい夜闇だが、街灯のおかげで歩くのに難儀するほどではない。 その街灯の下。 人影が一つ、現れた。 あおいはその人影を認め、顔を綻ばせる。 「菜々子……久しぶりね」 「お姉さま……」 突然の再会に、あおいは驚いた様子もない。 あおいの表情とは対照的に、菜々子の顔には緊張がにじんでいる。 「わたしと会う決心、やっとついた?」 「……え?」 「この前は、半年くらい前……だったかしら? 確か、S県の裏バトル会場にいたわね」 「気付いて……いたんですか」 「ええ……もちろん、あなたが今なんて呼ばれているかも聞いているわ。 放浪の神姫『エトランゼ』……強くなったのね、菜々子」 穏やかな彼女の口調に、菜々子は闘志を奪われそうになる。 変わっていない。 三年前、決別する前のお姉さまと。 「それで……わたしに何の用?」 「何の用、って……」 むしろそんなことを言い出すお姉さまの方がおかしいと思う。 わたしがお姉さまに望む事なんて、一つしかない。 「……裏バトルなんてやめて、戻ってきてください。昔のように、みんなでバトルロンドを楽しめば……いいじゃないですか」 「それは、無理ね」 「なぜ」 「わたしにはわたしの目的があるのよ」 「……それは、仲間たちを捨てても……しなくてはならないことですか」 「ええ」 あおいが迷いなく頷いたことが、菜々子には少なからずショックだった。 会って話せば、戻ってきてくれるかも知れない。 心のどこかで、そう思っていた。 だが、そんな淡い希望はあっけなく打ち砕かれた。 「……目的って、なんですか?」 「……あなたに言う必要はないけれど……そう、あなたがわたしに勝てたら……わたしとマグダレーナに勝てたら、教えてあげるわ」 言い終えるのと同時、あおいのアタッシュケースが音を立てて開く。 九〇度開いた位置で止まる。武装神姫収納用のアタッシュケースは、皆そのようにできている。 そのアタッシュケースの中から、立ち上がったもの。 異形の神姫。 マグダレーナ。 この神姫を見るたびに、菜々子は何とも言えない不快感に襲われる。 そのせいなのか、今の菜々子はマグダレーナの詳細な姿をよく覚えていない。記憶の中のマグダレーナはいつもシルエットだ。 菜々子もアタッシュケースを開いた。 その中から、フル装備のミスティが現れた。 「あれが、マグダレーナ……」 裏バトルでの戦いぶりは見ていたが、対峙するのは初めてだ。 桐島あおいの神姫にして、久住菜々子の仇敵。 先代ミスティの、仇。 ミスティが腕を磨いてきたのは、こいつを倒すためだ。 彼女のCSCに、激しい闘争心が宿る。憎悪なのではないか、と電子頭脳が迷うほど燃えさかる。 全身を駆けめぐる電気信号の温度が上がったような気がする。 対するマグダレーナは、黄金色の瞳をくゆらせて、かすかな微笑みとともに、ミスティをにらんでいた。 「くくっ……『狂乱の聖女』と『エトランゼ』の一戦をこんなところでやるなんて……裏バトルのフィクサーが聞いたら、泣くぞ」 初めて聞くマグダレーナの声は、ひどくしわがれていた。 持ち前の気の強さで、ミスティはマグダレーナに言い放つ。 「そんなことこそ、どうでもいいわ。あんたとわたしの一戦はどんなところでやろうと同じことなんだから」 「……その元気が、最後まで続けばいいが、な」 不気味に笑うマグダレーナ ミスティは無言で、異形の神姫を睨みつけた。 「目的なんてどうでもいいんです」 「え?」 「わたしはお姉さまを迎えに来たんです。 その神姫を倒し、あなたに勝ったら……戻ってきてください。 わたしたちの元へ」 「……勝てたら、ね」 その一言が、開戦の合図だった。 二人のマスターは同時に動いた。 「マグダレーナッ!」 あおいの指示で、異形の神姫は中空に飛び出す。 そして、 「ミスティ、リアルモード起動! 入力コード“Icedoll”、タイプ・ビーストッ!!」 「おおおおおおぉぉぉっ!!」 菜々子の叫びと共に、ミスティは獣と化して駆け出す。 トライク・モードの走りではなく、四足獣のそれだ。 今のミスティは、獲物に一直線に襲いかかる野獣そのもの。 猛りながら、マグダレーナを襲う。 あのティアでさえかわしきれなかった、怒濤の攻め。 それがリアルモード・タイプ・ビーストの特徴だった。 背中にマウントされた二丁のアサルト・カービンが火を噴く。 牽制の射撃であるが、はずそうなどとは思っていない。 マグダレーナはひらひらと舞うようにかわした。 あの超重の装備を背負いながら、よくもあんな動きができるものだ。 菜々子は感心する。 だが、マグダレーナはその装備のせいで、速度はそれほどでもない。 今の射撃で、さらに足は遅くなった。 ならば逃さない。 ミスティはひときわ強く地を蹴ると、低い姿勢のまま、マグダレーナに飛びかかった。 アサルト・カービンを乱射しつつ、着地直前に右のエアロチャクラムで薙ぎ、着地と同時、左の副腕で払う。 ミスティのエアロチャクラムは、ノーマルのイーダ型と違い、サブアームとして独立して動かす改造が施されている。 さらに攻める。 左右の副腕を振り回す。 そして、自身が握る剣・エアロ・ヴァジュラを袈裟懸けに振り下ろす。 息つく間もない怒濤の連係攻撃。 しかし。 「そ……んな……」 菜々子はかすれた声しか出すことができなかった。 攻撃のことごとくを、マグダレーナは捌いてみせたのだ。 ありえない。 タイプ・ビーストは、イーダのミスティが独自で身につけた戦闘方法だ。 先代ミスティの戦い方をベースにしたタイプ・デビルであれば、あおいに悟られたかも知れない。 だが、このミスティの攻撃をあおいは知らないはずだった。 なのに、なぜ触れることさえできない!? 「ふはははは……見えているのだよ、わたしには……貴様の、一挙手一投足がな……!」 マグダレーナの嘲笑。 そんなはずはない。 あのハイスピードバニー・ティアでさえ、タイプ・ビーストの攻撃を凌げなかったというのに! 菜々子の驚愕を知らず、ミスティは攻撃の手を緩めない。 「このおおおおおぉぉ!!」 ミスティがさらに踏み込もうとした、その時。 ついに、マグダレーナが動いた。 装着されたバックパックには、サブアームを思わせる、巨大な二つの塊がある。 それが砲身となって持ち上がり、ミスティに狙いを定めた。 それでもミスティは止まらない。 地を蹴り、マグダレーナへと突進していく。 マグダレーナの砲が火を噴いた。 連続的な炸薬音とともに、弾丸が次々と撃ち出されてくる。 その狙いは正確無比。 ミスティの背部にあったアサルト・カービンが吹き飛んだ。 ミスティがエアロチャクラムを交差したとき、身体の中央に攻撃が来た。 装甲が細かな断片となって、千切れてゆく。 それでもなお、ミスティは駆ける。 右の足首が、地を蹴ろうとした瞬間に消し飛んだ。 「うあああっ!」 バランスを崩した体勢を立て直そうと左脚を踏ん張ろうとしたが、できなかった。 太股の付け根、脚部強化パーツ『サバーカ』の装着部分で弾丸が炸裂し、ミスティとサバーカを引き離していた。 ミスティは、サブアームを地に着き、ホイールを回転させる。 トライク・モードへ変形しようとした、その時、 「しつこい奴だ」 かすれた声が聞こえた瞬間、銃口から、一直線に弾が来た。 ミスティの左眼にめがけて。 頭への強烈な衝撃で、ミスティの上半身が跳ね上げられる。 さらに続く攻撃は、イーダ型ならば誰もが自慢にしている巻き毛を、ごっそりと奪い去った。 自律防御プログラムが働き、サブアーム化したエアロ・チャクラムが、ミスティ本体を掻き抱くような姿勢で防御する。 しかし、先の防御で千切れ飛んでいた装甲は、もはや役に立たない。 エアロ・チャクラムの本体に断続的に着弾、粉砕していく。 ついにはサブアームの付け根まで破壊され、ついに両副腕は地に落ちた。 が、その瞬間。 ミスティはのけぞった身体を元に戻すと、陥没し、オイルが滴る左眼で、マグダレーナを一直線に睨みつける。 ま ミスティの残った瞳は、マグダレーナへの敵愾心に燃えていた。 「やめて、ミスティッ!!」 菜々子の声も、ミスティには届かない。 そう、ミスティには止まれぬ理由がある。 破砕した右足首を、折れよとばかりに地に突き立て、片脚だけで、跳ねた。 マグダレーナまでは一足飛びの距離。 「おおおおぉぉっ!!」 吠える。 そして、刀を振り下ろそうとする。 マグダレーナに向けて。 それよりも早く。 マグダレーナが手にした槍が、神速で弧を描き、ミスティの両腕を薙いだ。 ミスティの剣は、マグダレーナに届くことなく、腕と共に宙を舞った。 そして、ミスティが着地するより早く、返した槍で、ミスティの身体を斜めに斬り捨てる。 宙でのけぞったミスティ。 時が止まる。 無音。 ……やがて聞こえてきたのは、ミスティが地に伏す音だった。 ◆ 「……復讐を気取ったところで、所詮はこの程度……マグダラ・システムある限り、我々に敵はない……」 もはや動くことすらできず、地面に転がったままのミスティに、マグダレーナは槍を構えた。 「二度と我が前に立てぬようにしてやる……死ね」 ミスティに狙いを定めたとき、何か大きなものが滑り込んできて、マグダレーナの視界を遮った。 菜々子だった。 彼女は地面にうずくまるようにして、ミスティの身体を覆い隠した。 その身体が震えているのは、寒さのせいだけではないだろう。 しかし、マグダレーナは、そんなミスティのマスターさえも冷ややかに見据えた。 「ふん……神姫と運命を共にするのが所望か……ならば望み通りにしてくれよう」 マグダレーナは、背面にマウントされた銃火器と、手にした槍を構える。 その動作にためらいは微塵も感じられなかった。 マグダレーナの放つ殺気が最大に張りつめたその時、 「そこまででいいでしょう、マグダレーナ」 桐島あおいの声に、マグダレーナは振り向いた。 不満そうな表情が貼り付いている。 「……甘いことだな……。ここで復讐の根を絶たねば、いつまでもまとわりつかれることになりかねん」 「無用な殺生をするべきではないわ。それで警察に目を付けられたりしては、動きにくくなる。目的が達せられるまで、あと少しなのでしょう。立場を不利にしないで」 マグダレーナは菜々子を一瞥する。 今の会話が聞こえているのかいないのか、菜々子はうずくまったまま、身動きすらしない。 これが先ほど果敢にも我々に挑んできた神姫マスターのなれの果てかと思うと、マグダレーナは憐れみすら覚えた。 確かに、こんな哀れな娘と瀕死の神姫を殺したところで、自分たちが不利になる状況を生むだけだ。 マグダレーナは、ゆっくりと構えを解いた。 「ふん……もはや殺すにも足りぬわ……あおいに感謝するがいい……」 かすれた声でそう吐き捨て、マグダレーナはアタッシュケースの中に戻る。 あおいは、菜々子の背を見つめていた。 「わたしの勝ちね、菜々子」 その言葉に、丸められた菜々子の背が、びくり、と震えた。 「もう、わたしたちに挑むのはやめなさい。あなたがどんなに強くなっても、絶対にわたしたちには勝てない。……神姫を失って悲しむ菜々子を、もう見たくないわ」 そう言って、桐島あおいは踵を返した。 まるで何事もなかったかのような足取りで。 足音は遠くなり、やがて消えた。 雪はいまや本降りとなっていた。 しんしんと降り積もる雪の中、菜々子は身動きすらできずにいた。 絶対の自信を持って挑んだ戦いに、あっけなく敗れた。 大事な人は、自分を気にもかけずに、去った。 大切な神姫は大破し、もはや再び動くかどうかもわからない。 菜々子は再び神姫を失おうとしている。 あの、地獄のような苦しみを、つらさを、また味わわなければならないのか。 自らの愚かな選択の代償として。 その罪のすべてを、マスターではなく、神姫が負うというのか。 そんなのはおかしい。 誰か。誰かミスティを助けて……。 無意識のうちに、菜々子は携帯端末を取り出していた。 冷え切った指先を必死で動かし、たどり着いた番号は、彼女がもっとも愛する神姫マスターのものだった。 通話ボタンを押し、端末を耳に押しつける。 やがて聞こえてきた彼の声に、菜々子はどれほど救われただろう。 だが、言うべき言葉が見つからない。 ただ、ただ、その事実だけを言葉にする。 「負け……ちゃった……」 自分の声が、自分の心を鋭くえぐった。 ◆ その心をえぐる痛みで、菜々子は目を覚ました。 あたりは薄暗い。瞳だけ動かして、周囲を確認した。 見慣れた天井、見慣れた壁紙。 ここは、自分の部屋だ。 あれから、わたしは何をして、どうなったのだろう。 それとミスティは……。 はっ、となって、机の上にあるクレイドルを見る。 いない。 いつもならすでに起きていて、笑みを浮かべている小さな神姫の姿は、今日に限ってはいなかった。 胸の鼓動がやけに大きく聞こえる。 ミスティは、あの後、どうしてしまったのか。 記憶がない。 この部屋にどうやって戻ってきたのかすらも覚えていなかった。 焦りを覚え、菜々子は起きあがろうとする。 「ぐ……」 身体の節々が痛い。 それに、喉がからからだった。 菜々子は無理矢理起きあがり、ベッドから立ち上がった。 本当に自分の脚で立っているのかも疑わしいほど頼りなく、ふらふらする。 同時に激しい空腹を感じた。 いったい、何がどうなってしまったのか。 菜々子は壁に手をついて寄りかかりながら、部屋の外に出た。 そのまま、居間の方へと歩いていく。 「……あら、おはよう。お目覚めね」 居間でお茶を飲みながら、ノート型PCを開いていた祖母が顔を上げて、微笑んだ。 「……頼子さん……ミスティは」 自分の声とは信じられないくらい、がらがらの声。 ふらふらの身体を叱咤して、なんとかちゃぶ台の向かいに座る。 すると、頼子はお茶を淹れて、菜々子に差し出した。 いつも菜々子が使っている湯飲み。 菜々子が起きてきたときのために用意していたのか。 菜々子は一口お茶をすする。 少しぬるめの緑茶が、渇いたのどに気持ちよく染み渡っていく。 「ミスティなら大丈夫。一昨日、お店に修理に出したと、遠野くんから連絡があったわ」 「とおの……くん……?」 「あら、覚えてないの? 土曜日の夜遅く、あなたを家まで連れてきてくれたのよ」 「貴樹くんが……」 まるで覚えていない。 記憶の最後の方、貴樹に電話したことだけ、かすかに覚えていた。 そんな不確かな連絡を受けて、彼は助けに来てくれたのか……。 菜々子の胸にあたたかいものが広がっていく。 ミスティもきっと無事なのだろう。そうでなければ、合理的な彼が、ミスティを店の修理に出すはずがない。 菜々子は少しだけ安堵した。 だが、大きな不安は拭えない。 わたしはこれから、何をすればいいのだろう。 不安げな顔をうつむいて隠した菜々子に、頼子は言った。 「まあ、少し休みなさい。動くのは、気持ちが落ち着いてからでも遅くはないわ」 「うん……」 どうやら祖母には、何もかもお見通しのようだった。 お茶を飲み、息をつく。 とりあえず、休もう。そしてこれからのことを考えよう。 まずは、貴樹くんにお礼を言わなくちゃ……。 つらつらと考えていた菜々子の耳に、ご飯にするわね、と頼子の声がわずかに聞こえた。 だが、菜々子が眠っていたこの三日の間に、とんでもないことが起こっていたことを、今はまだ、知る由もなかった。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2409.html
暑くて、厚くて、熱い。 容赦なく降り注ぐ砂漠の太陽は、容赦なく廃熱を阻害し、揺らめく分厚い蜃気楼のせいで体感500m先はわからない。そのうえデザートイエローのシートで覆われた『彼女』の装甲板は際限なく過熱され今や、手袋無しで触ることすら億劫になろうかというところである。 「あつぃ~です」 シートの下の装甲版のさらに下、彼女はけだるげに愛機に腰掛けていた。 周囲には遥かの昔に放棄されたのであろう廃ビル群が立ち並び大きな日陰も目立つのだが彼女はあえてその場所を選んだのだ。 周囲に遮蔽物がなく、前方に軽くビルの残骸や、土を盛るだけで塹壕となり、また……背後から急襲される可能性の少ないバトルフィールドの端。 そこはまさに格好のアンブッシュポイント、いや、むしろ絶好の砲兵陣地といえるだろう。 彼女は砲台型フォートフラッグのスチール・ブリゲード、愛称は「キャロル」。武装神姫である。 通称『一人旅団のキャロル』 とはいえ、これは彼女が自分に付けられた名前の意味を理解した際に皮肉を込めて名乗っているだけで、知名度もなにもない。 キャロルという愛称も彼女がゴネて付けさせたもので、英語圏の苗字であるキャロルよりはむしろ米陸軍第18砲兵団の本拠地であるところのノースカロライナの意味だと彼女が理解したのもつい最近。 「いくらフォートブラックだっていっても……ふんっ! いいんですから、ジョーとかアーノルドとかつけられなかっただけでも良しとしてあげ……あぁっ、もうっ!あのミリオタぁっ! 少なくともジェーンとかいろいろあったでしょう!? もうっもうっ! リセットせずに改名できたらぁっ!!」 ガンッと力任せにレストパットの装甲版を殴りつけ、殴りつけた拳の痛みに悶絶。なんだかよけいになさけない気分になったのか、大きくため息をついた。 そのとき、ヘルメットの出力部分から彼女の聞き知った声が流れた。 「はいはーい、こちらブラボーワン、感度は良好ですよ?」 その直後、キャロルはヘルメットの上から片耳を押さえて顔をしかめた。 「了解しました! わかってます! 小さな声で送信音量を限界まで上げて怒るのやめてください!」 いいつつ左手で流れるようにコンソールを弄り、愛機の獲物を「目標」に定める。 「試射時との気象条件の変化なしっと、射角よし、準備よし! デンジャークロースですよ、注意してください!」 細い指がポンっ、と踊るようにコンソールを弾いた次の瞬間、バンッと今までの停滞を打ち払うかのような爆音が響き、砲身が一瞬大きく後退する。 「発射しました、弾着まで2、1、弾着……今。 砲撃評価願います」 遠くの方から遠雷のように爆発音が響き、続けてブゥーンという相棒の発生させている機械音がここからでも聞こえる。 「Rog、マップグリッド、ヤンキー-ワン-シックス-ゼロ ホテル-ツー-セブン-ファイブ エックスレイ」 再びコンソールの上を指が踊り、にやりと笑う。 「ふふっ、デルタロメオエネミー(ディアエネミー)です」 バンッ……バンッ……バンッ 続けて三発、続く遠雷に先ほどのブゥーンという機械音と何かが炸裂する音。 「フィニッシュパターンですねー、敵さんも気の毒です。アリスちゃんトリガーハッピーですから 動けなくなってもひとマガジン撃ちつくすんですよね~ っと、こちらはどうでしょう? これだけ派手にやれば……」 そう呟くとキャロルはヘルメットにマウントされたヘッドマウントディスプレイを下す。 「ビンゴですっ! ふふんっ、バカがかかりましたね?」 相棒がオーバーキル気味の制圧射撃を加えている一方、敵方の相棒が彼女を探している。 もっともさっきから派手に発砲音を響かせているので、よほどのトンマでもない限り彼女の居場所は見つけるだろう。 即席のカモフラージュでは突き出した……その黒光りする砲身はフォートブラックの純正品ではない、海外メーカー製というか、彼女のマスターがアメリカのユナイテッド・ディフェンスとの知り合い(どうせ海外モノのFPS友達に違いない)から譲り受けたという1.55mm榴弾砲。 流石に榴弾砲すべてをカモフラージュシートで覆うわけには行かないので、どうしても砲身が目立つのだ。 そんな、図体だけ大きく、更に自ら周りを埋めてしまっている為身動きさえ取れない一見完全に無防備な砲兵陣地であったが……接近戦で一気に片をつけようとしていたのであろうストラーフ型の神姫が、陣地までたどり着くことはなかった。 「随伴歩兵もいない砲兵陣地付近が無防備なわけないじゃないですか。 州兵だってもう少し警戒してますよ?」 キャロルは右手に握ったスイッチ。 すなわち外周部に設置された神姫用の指向性爆弾の起爆スイッチを投げ捨て、やれやれと肩をすくめて見せた。 ≪WIN≫ TOP